俺好みに育てた幼女がおとこの娘だった件
__雀の子を犬君が逃しつる。伏籠の内に籠めたりつるものを。
あれから何年か経ち、少女は兵部卿の宮様の子で祖母であった尼君も亡くなられ、兵部卿の宮様の方へ引き取られると分かった時に私は半ば誘拐のようにして引き取ったのであった。
「若紫」と名付け私好みの女子、何よりも藤壺の宮様のようにお育て申し上げようとしたのである。やはり血は争えぬからか、見目麗しく育ち様々な才能をも持っていらっしゃった。箏や和歌のような女子としての教養は勿論漢籍までもお習いあそばされた為、当に眉目秀麗。
ただ残念ながら、引き取った時には気付かなかったが若紫は男子であった。常々から私は衆道の気などないと思っているのであるが、若紫を前にすると揺らいでしまう。これは若紫が藤壺の宮様に似ていらっしゃるからなのか、私に隠された衆道の趣味が現れているのかは定かではない。無意識のうちである(未来の学者によるとそれは私の深層心理というものであるそうだが)本当に若紫は美しく立派になられた。立っているだけでも惚れ惚れしてしまう。
「きよげなり」
口をついて出た言葉に振り向いて可憐に微笑む姿は実にきよげなる有様だ。この際若紫が男子でも良い。私はこの方と平和な日々が過ごせれば良いのだから。立ち上がり若紫の元へ行く。物音に驚き庭の小鳥が羽ばたいた。
あゝ雀の子を犬君が逃しつる、伏籠の内に籠めたりつるものを。