始まりの異世界
ある晴れた日に街に居たはずが、気付いたら王宮に居た。
瞬時に王宮だと思ったのは、見たこともない豪華なシャンデリアや壁や天井に想像上の天使や女神やらが描かれていて、俺が立っている中心部から、人々を左右に分けて一本の筋の先に、その体よりも大きい贅沢な粧飾をされた椅子。
そこにどっしりと構えた、これまた豪華な毛皮を着た男が俺を見ていた。
正確には睨んでいたかもしれない。
何を言っているのか自分自身すら分かっていないが、周囲を見て思う事は、全員が俺を見て驚いた顔をしている。
状況判断するために周囲を見渡して、椅子に座る男とは反対方向に居たローブの老人が一言だけ発した。
「失敗じゃ、この者から魔力の欠片も見つからん」
「何が失敗なんだよ、訳の分からないこの状況を教えてくれ!」
いきなり否定されて頭にきた俺の言葉に呼応するように、周囲の人間たちが『何という言葉遣い』だとか『獣のようだ』とか好き勝手に言ってくれた。獣は喋らねぇだろうと言いたいが多勢に無勢、槍も剣も持ってる兵士達を見て言わずに堪えた。
「俺は、俺は買い物に行く途中だったんだ!何がどうなってここに居る!」
「黙れ」
その声の主はローブの老人でもなく、周囲のチェンメイルを着た兵士達や槍を持った兵士、剣の柄に手を当てて今にも抜きそうな兵士も居る。
だが声の聞こえた方向を見ると偉そうな態度で座っていた男だと直ぐに分かった。
黙れという一言で兵士達やローブの老人が敬意を表してひざまずく、一体誰に?
黙れとか言うやつがどんな奴かは知らない。只々、偉そうに座っている髭面のこの男が何なのか知らないが、黙れと言われて全員が黙り込み、まるで王に謁見するかのように片膝をついているのを見て何なんだと思った。
馬鹿じゃないのか?と、まるで中世の映画を見ているようだった。
「名は?」
「……望月 連です」
豪華な粧飾の椅子に座る男が心底面倒そうに、頰杖を突きながら俺の名前を聞いた。余りの態度に腹が立ったが答えなければならないような気がして答えた。
「それで?」
「…それでとは?」
「貴様!口の利き方に気をつけろ!」
「ウグッ…カハッッ!!」
一瞬だった。脇腹に鈍く、それでいて鋭い痛みと押し込まれる感覚に息ができずに、思わずしゃがみ込んだ。あまりの痛みに目線を右の脇腹に移すので精一杯だった。
右腹には何かが突き刺さっていて、痛みから動けずに咳き込む。
「もう良い」
その一言に脇腹に食い込んでいた物が引き抜かれる、持続する痛みから少しだけ開放され、痛みの方を見ると槍を持った兵士が槍の下、石突と呼ばれる部位で突いたと気づく。
感じたことのない痛みに兵士を睨むが兵士の口元は歪んでいた。馬鹿にするように、自分よりも弱いものを見て楽しむように笑っていた。
「うぅ…何なんだよ、何なんだ……これは」
痛みで涙が出た。わけもわからないこの状況に叫びたくても痛みで叫べない、叫んだとしてもまたヤられるかもしれないと身体が覚えてしまっていた。それが悔しくて情けなくて、無性に腹立たしかった。
「使えないのなら捨て置け」
「は?何だよそれ!いきなこんなーーガッア!」
「王様、この者を奴隷の集落に捨ててまいります」
痛みで息ができず、薄れゆく意識の中で、王座に座る男に俺を叩き伏せた兵士が喜々として、その功績を王に報告している後ろ姿。
それがこの場所で見た最後の光景だった。