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僕らの惣菜パン戦争

作者: 雨帰

さあ、始まりました。第257回惣菜パン争奪戦。チャイムは開戦の狼煙、ゴングである。

先月発売のゲームを無計画に買ってしまった主人公亀沢は授業終了の号令が終わらないうちに全財産300円ちょっとが入った財布を握りしめ走りだしたのである。

廊下に響く彼への叱咤など気にする余裕などない。亀沢の脳内はただ午後をギリギリ生き抜く食料の確保で一杯一杯であった。

お目当ては本日のスペシャル総菜パン、ストロベリーチーズパンである。お値段100円と大変お財布に優しい値段でありながらチーズとストロベリージャムの相性抜群おいしささらに量も文句無しの言うなれば貧乏にもお優しい女神パンなのである。これを買わずして午後の憂鬱を飛ばせるものであろうか。残り財産を確保しつつ午後を生き抜くため亀沢は走るのである。

購買へ駆け込むと案の定惣菜パン争奪戦、トーナメントを作るとしたらシード枠に入るであろう奴を亀沢は視認した。フランス人形を思わせる可憐な容姿、黙っていれば虫も殺せなさそうな奴こそ亀沢の天敵なのである。

「藤野ッ……」

天敵藤野はゆっくりと振り返りゴミを見るような目で亀沢を見るのであった。

「小童か。今日は豪く意気込んでいるではないか」

その身から漂う王者の風格。パンに集中せねばうっかり呑まれてしまいそうである。ここでこらえねばストロベリーチーズパンへの道は閉ざされてしまう。亀沢は己を奮い立たせ藤野に再び向かい合った。

「そこをどいてもらおう。購買に用があるからな」

「ほほう、用か。良いだろう通るが良い。その用を済ませられるならな」

口の減らない奴だ。亀沢は心の中で毒づきながら持てる瞬発力のすべてを持って購買のショーケースへ飛んだ。


瞬間


亀沢は時間の流れが急激に遅くなるのを感じた。ポケットから滑り落ちたであろう使い古しのマジックテープ財布が宙を舞い小銭をばら撒いた。ショーケース前で顔を伏せて佇む藤野が見える。心臓が早鐘を打っていた。悪い予感とともに悪寒と冷や汗。わが身に起こりうる不幸はすでに予想済みで恐怖という表現では収まらない感情に支配されていた。しかし亀沢は止まることを自らに禁じた。ここであきらめてしまえば午後は酷い空腹と眠気に苛まれることになるのだ。

目の前の連戦連勝のまさに魔女ともいえる奴の横をすり抜けショーケースに手をつけた時、亀沢は視界の端で動く薄い金髪を見た

藤野が動き亀沢の腕を掴んでいたのだ。

「藤野のパンだよ?」

完璧な上目遣い、整った顔、発せられる可愛らしい声。これだ、これである。百戦錬磨の先輩ですら負かしたこの技を、今、貧乏にあえぐ亀沢にも無慈悲に使ってきたのである。

 腕を掴まれた衝撃で切れた集中に被せたその技の破壊力はすさまじいものだった。

「ヤバい」

刹那、亀沢は購買の窓を突き破り校庭上空を飛んでいた。雲一つない青空、光を反射して回るコインとガラスの破片。周りの状況を理解した時挑戦者亀沢は静かに悟ったのであった。


負けだ


 購買にもどった頃にはストロベリーチーズパンは当然残っておらず、亀沢は苦行のような午後を過ごした。

ちなみに購買なのであればパンは複数仕入れてあると思うのは当然であるが容姿に見合わず大食いの少女藤野に小さな購買が仕入れるパンなど数にならないのである。

第257回惣菜パン争奪戦連敗記録更新。亀沢の次の活躍に期待しよう。 




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