乳が無くとも牛娘ちゃん!
どうも、今回の短編はちょっぴりえっちぃ設定ですが、『なろう』作品の短編ということで実はそれほどえっちくありません。
百合です! 誰か一人でも楽しく読んでもらえれば幸いに思います。
ここは何処かの世界にある牛娘の暮らすドタプン村、物語はここから始まる。
右を見ても左を見ても胸の大きな女性ばかり、そんな巨乳の牛人族たちが自分たちの自慢の乳から搾った乳製品を特産品としている村だ。
そして、この村の女性は誰もが爆乳でスタイル抜群。
繰り返すが皆、手足もすらりと伸び、個々の体格差はあれど肉付きの良い女性ばかりであり美人揃い。そのために立ち寄る旅人は男ばかり。
そんな村で、一人の牛娘ちゃんが寒さに震えていた。
「えっちしてくださ~ぃ……、ぇっちしてくださぁ~ぃ……」
その日は特に寒い日だった。降り続ける冷たい雪の中、周りにはカップルばかりの村の中で一人身体を売ろうとする牛娘。
彼女の名はシュプニー。ドタプン村で唯一ちっぱくて、ちみっこくて、全体的にミニマムな女の子である。もちろん胸は限りなく無いに等しい平坦さである。
「はぁ……、今日もダメなのでしょうかぁ」
牛人族は成長が早いために、10年もすれば生殖可能となって村のために搾乳をする。
搾乳をするためには妊娠しなければいけないのだが、シュプニーは生まれて20年も経つというのに幼い容姿のまま成長が止まってしまっているのだ。
同い年の子たちは、すでに何度も妊娠して子を産んでいるというのに、シュプニーはその幼さから男たちに相手にしてもらえず、未だに乳が搾れないでいる。
孫やひ孫がいる子だって珍しくはない。
そのために一族で唯一の落ちこぼれのシュプニーは、村はずれにあるボロ小屋で一人で暮らしているのだ。
「どうすれば、おっぱいが大きくなるんだろう……」
頼る者も居らず、幼い体躯では家の修理すらままならない彼女の家は快適とはとても言えない。今も容赦なく入り込んでくる隙間風がシュプニーの体温を奪っていく。
薄い毛布に必死に包まって耐えるが、奥歯はガタガタと震え、手足もかじかんでしまう。
そんな寒くて屋外と変わらないようなボロ小屋で思い出すのは、子どもの頃に寺子屋で保健体育の授業を受けた時の事だ。
早熟な牛人族は基本的なことを教われば、あとは自分で好きに生きる訳だが、何もいきなり放り出される訳ではない。
親の営む牧場なり娼館なりで働くも良し、村の職人に弟子入りして何らかの技能を磨くのも良し。
が、それも旅の男を捕まえて孕み、子を産んで一人前の大人と認められなければいけない。
牛人族からオスが生まれた場合は傭兵として大陸中に旅に出るのが常となっているが、当然腕っぷしも性根も半端なごろつきのオスもいる訳だ。
シュプニーの住んでいるボロ小屋周辺はそうした半端者が多く集まる危険地帯。
当然シュプニーも危機感を持っているかと思えば、
「やっぱり、おっぱい小さいから誰からも女として見てもらえないんだよね……」
そう、牛人族のオスはおっぱい大好き巨乳好き! シュプニーのようなちっぱいロリロリな女の子など相手にするはずがない。
そしてこの村にやってくる他種族のオスの旅人はおっぱい好きばかり。必然的に一人だけ余ってしまうという訳だ。
孕むことも出来ず、今日もシュプニーは一人で過ごす。村の料理屋などで恵んでもらった残飯を欠けた茶碗と長さの揃わない箸で口に運ぶだけであった。
「……もしかして、私ずっとこのままなのかなぁ?」
誰からも相手にしてもらえない乞食としての未来の自分を想像したシュプニーは涙ぐんでしまう。
今日のご飯はエビフライの尻尾30人前! それがなんとも塩っ辛く感じるのは海で採れたエビを塩漬けにして長期間かけて運んできたからだけではないだろう。
若干、お腹が緩んでくる気もするが、それもエビが傷んでいるとかは関係ないはずだ。心も体も寒いのだから。
お客さんの残したエビフライの尻尾を30人前を完食する頃には雪は止み、風も少しだけ落ち着いてきていた。
これなら明日の朝、屋根の雪かきをしなくても済むとシュプニーが考えていた時、ふと小屋の戸が叩かれた。
トントン――。ノックだけで壊れそうに軋むはずのボロ小屋の戸が、その客人を受け入れるかのように優しく音を響かせた。
ボロ小屋を軋ませずにノックをするこの客人、これだけで相当の腕前をうかがわせる。
「失礼、ここは牛人族の中で唯一ちっぱいロリの牛娘ちゃんが暮らす家で間違いないだろうか?」
まだ若い人間の女性――歳は20代前半といったところか。綺麗な声でとても誠実に感じられる丁寧な言葉が紡がれる。
そのことにシュプニーは驚いた。村の住人ではないのだろうが、ちっぱい自分にこのような優し気な声で話しかけてくる大人はいないのだから。
「(私なんかの家に、ここまで丁寧なお客さんが何の用だろう?)」
シュプニーは疑問に思ったが、人から優しくされるのに慣れていないので客人の扉越しに伝わる敬意により、あっさりと信頼してしまい戸を開けた。
軋む戸を壊さずに開けると、そこに立っていたのはシュプニーからすれば頭二つは大きい女性。そして村の牛人族の女性と比べても勝るとも劣らない見事な大きさのおっぱいを持つ美女であった。
「開けてくれてありがとう。
私は旅の者で、名はフランチェスカと言う」
「どうも、私はシュプニーって言います。
それで、こんな私に何の御用でしょうかぁ?」
「うん、突然だが、きみは女性同士での恋愛をどう思うかな?」
戸を開けて開口一番に、本当に突然な発言をするフランチェスカ。
「私はね、いわゆる男女間での“普通”の恋愛感情を否定するつもりはないが、それでも最も美しい愛というのは女性同士での恋愛だと思っているんだ。世間の理解は得難いがね。
そして、この村には私の伴侶となってくれる女性を探してたどり着いたわけだよ」
「……はぁ」
フランチェスカの語る理想の恋人――それは自分にないものを持つ女性。
具体的に言えば大人になってもロリロリしているような合法ロリで、全体的にミニマムで守ってあげたくなる感じの子だ。
「……もしかして、私みたいな?」
「そうだ! そうなんだよ、シュプニーちゃん!!
私は女だてらに冒険者として世界の未知(伴侶)を探索してきたが、ついにきみという宝と巡り会えた!
どうだろう、私と共に世界へと飛び出してみないかい?」
差し出されるフランチェスカの右手に、シュプニーは驚いた。
自分「なんか」を必要としてくれる人が目の前にいる。そして、目の前の女性――フランチェスカはシュプニーのことを「なんか」などと見下してなどいない。
そのことに、初めての感情が彼女の胸にこみ上げてきた。そうして、フランチェスカの言葉をもう一度頭の中で繰り返し、しっかりと自らの手を差し出された手に重ねたのだった。
「私があなたの助けになるのなら、どうか私をあなたの伴侶にしてもらえないでしょうか……?」
これが最初で最後のチャンスだとシュプニーは思った。
フランチェスカがシュプニーのことを「自分を理想の嫁」と言ったように、シュプニーもまた、フランチェスカに今までに感じたことのない感情を持ったのだ。
それが恋だということは経験のない彼女にはまだ分からないことだろう。それでも、今まで見たことのない世界をフランチェスカは見せてくれると、そう確信したからだ。
「ははは、私はきみを生涯愛し、守ることを誓おう」
「わ、私もフランチェスカさんに、ついていきたいです!
でも、こんなナリですから、えっちの経験が全然なくて……」
恥ずかしくなって俯いたシュプニーは自分の胸を見る。フランチェスカは欲してくれたが、自分の胸は差し出せるほどに発育していない。
しかし、だからこそフランチェスカはシュプニーを欲したのだ。薄く平坦なちっぱいシュプニーを!
「気にする必要はないさ。
私は、ただ幼い君とえっちを目的に嫁に来いと言っている訳ではないんだ。
出会って、目を見て、言葉を交わし、そうしてきみの全てを欲しいと思った。
苦楽を共にして一緒に生きていきたいと思ったから声を掛けたんだ」
勿論、えっちをしたいという気持ちもある! と堂々と、ついでのように宣言するフランチェスカ。
嘘ではないのだろうが正直、この口説き文句はどうなのだろうとシュプニーも思わないでもなかったが、何だか面白そうだったので特に気にすることなくスルーしたのだった。
「さぁ、私たちの恋愛という名の冒険はこれからが本番だ! これまでは前座だ!
行くぞシュプニー。世界に百合という名の愛を知らしめるのだ!」
「はい! 一緒に愛し合いましょう!」
かくして、シュプニーとフランチェスカの百合の冒険は小さな村のボロ小屋からこうして始まったのだった。
◆ ◆ ◆
それからの出来事を語るならば、それはもう色々な場所でやらかしたり、救ったり、滅ぼしちゃったりと、やりたい放題であったのはこの二人の愛の結果と言えるのだろうか?
ある時は酷い飢饉で飢えに苦しむ国を二人が愛の力によって、なぜか出た母乳を与えて救った。
またある時は不正を働く貴族を殺したら、怒った他の貴族が襲ってきたので襲われなくなるまで返り討ちにしていたら残ったのは二人に影響を受けた百合好きの貴族だけになって善政を敷くようになった国もある。
同性愛が罪となる国に立ち寄った時には、王をぶん殴って百合の魅力に気づかせて法を変えさせたりもした。
そんな自由に愛し合う長身美女のフランチェスカと、ずっと幼いシュプニーの二人に出会った者たちは大なり小なり影響を受け、世界には少しずつ百合の花を咲いていった。
……そうして10年ほどの歳月が流れた頃には歴史上初となる大陸を統一する大国家“フラプニー百合国”が誕生したのであった。
女王が百合の二人。家臣も百合。国民も百合。国旗には女王二人のなまめかしく絡み合う姿が描かれ、末永く愛され続けたのだった。
建国後に国民の前に姿を現した二人の女王は宣言する。
「生まれや身体的特徴というのは、人によって好き嫌いがあるだろう。
それでも、自分を好きだと言ってくれる人に出会い、好きという気持ちを伝えられたこの幸運に感謝を!」
「愛しい相手と性別に関係なく結ばれることの出来るようになったこの世界に感謝を!」
誰もが二人の動向に注目しているその中で、フランチェスカとシュプニーは熱い抱擁からのキスをする。
舌を絡ませ、燃えるように濃厚な愛の口づけを。
数回繰り返されたキスの後、二人は声を揃えてこう言った。
「「誰もが愛し、愛されることに差別の生まれない国にすることを誓う!」」
女王二人の言葉に国民は歓喜の涙を流す。
こうしてまた、百合によって救われる世界が何処かに誕生したのであった。
書き上がりまでの細かい経緯や後語りは活動報告で。
お読みいただき、ありがとうございました。