最終日。
*** 最終日(日曜日)***
今日も良く晴れている。
オレは気分良く8時半前に駅に着いていた。
いつの間にか時計は8時45分を回っていた。「おかしいな?」と、オレは思った。考えてみれば、昨日以外、全て偶然か、彼女の待ち伏せで会っていた為、オレが待つことがなかった。昨日にしても、彼女は5分も遅れていない。だから、彼女に”待たされる”のは初めてだった。
暫くしてだ。オレを呼ぶ声が聞こえた。
「ノリカズさん。」
ん?唯の声・・・の様だが、チョット大人しい。オレは振り返った。
「どちら様ですか?」と、オレはとっさに聞いてしまった。
「唯だよん!」
「えっ・・・!」と、オレは叫んだ。オレの目の前にいる女性、それは昨日まで見て来た唯ではない。
「君は・・・。」
「へへ、驚いた?本当に唯だよ。」
髪は黒のストレートロング。化粧もそれなりにというか、殆どノーメイクに近い状態であるに関わらず、日本的な”正統派美人”。大きなスーツケースを引きずりながら彼女は立っていた。
「ねえ。ノリカズさん、少し時間貰えない?」
「ああ・・・」と、オレは兎に角驚いて、唯の言い成りになるしかなった。
彼女が、歩いて2-3分先の公園で話したいといった。
断る理由も何もない。オレは従い、公園のベンチに2人で座った。
「ゴメンね。実はさ。ワタシこれから故郷に帰るの」
「えっ?故郷?」
「そう、これから新潟に帰るの」
全く理解できない。オレの知っている唯は”ギャル”だ。今目の前にいる”お嬢様”ではない。
しかもだ。一人暮らしをしてることは分かってはいたが、新潟、しかも「今から帰る!」、もうオレは混乱して訳が分からなくなっていた。
「ワタシね。ノリカズさんに謝りたいし、物凄く感謝しているんだ。」
「なんで」
「最初にあった日、ワタシ、勤めていた”ネイルサロン”をクビになって直ぐだったんだよ。」
チョット、オレも落ち着きだした。
「そうか、だからオレに突っかかって来たんだ」
「それ。ごめんなさい。あの時、ワタシ、もう悔しくて悔しくて、この駅を降りた時ホントに辛かった。でね、丁度、前を歩いていた、ノリカズさん?に向かって、ワタシ、人差し指のつけ爪を突き立ててピストルみたいに、バン!ってやたんだ。そうしたら、ノリカズさんが定期入れを落したんだよ」
オレは自分を芸人のボケかと思った。まあ、それが縁だったんだと先ず落ち着いて思ったことだ。
その翌日の話は、自分が情けなくなった。
彼女はあの日、悔しさを紛らわす為。夜通しでクラブへいくつもりだったそうだ。だから、オレにしては”とんでもない服装とメイク”だったことも分かった。駅で彼女は改札に向かった際、オレが降りて来た。どうせだったら、このオジサン、フルネームも知っているし、一緒に飲んで思いっきり話を聞いて貰おうかって、その場で思ってオレに声かけたそうだ。
「居酒屋で飲んだ時、たぶん、早いうちからノリカズさんは”出来上がっていた”よね。でさ、ワタシの大親友が交通事故で亡くなった話をした時、凄く泣いてくれていたよね。その後『オレの友達のミズシマ?のモデルだった彼女も20歳になる前に亡くなった』って泣き叫んでいたじゃない。その人の名前がワタシの亡くなったお祖母ちゃんと同じでまた泣いて・・・。で、ノリカズさん自身の仕事とか、生活とか色々話してくれた。それを聞いて、ノリカズさんは本当にいい人だと思ったんだよ。だから、ワタシ、凄く自分勝手だって反省したの」
それはそう思っていてもらった方が良いと思い、オレは何も言わず聞いていた。
そして、その翌日、オレに謝りたいと思い、新宿駅の”乗り換え専用口”で待ち伏せしていたことも分かった。実は前日オレが”奢る”と言ったことは嘘で、本当はチャンと割り勘にするつもりだったが、オレが”今日は約束をチャンと果すよ”と譲らなかったので、奢って貰ったと言った。
そして、雨の中、ずぶ濡れになって言い争いをしていた相手が、唯の弟であることも分かった。唯は両親から「仕事を辞めたら帰って来なさい!」と言われていた。それが何故か今回簡単にバレ、隣町で下宿している大学生の弟が、両親からの指示でやって来て、言い合いとなったそうだ。
その後、1日考え、結局帰る事を決意し、最後の東京での思い出を作ろうと思ったそうだ。
それが、最後に迷惑を掛けたオレへの謝罪を含め、何かしようと思ったそうだ。
それが”競馬”になったわけだ。
「もう、ワタシ、才能が無いことが分かったの。だから、ネイリストは辞めるの。4年間、東京でやって来たけど全然ダメだった。だから、新たなワタシになって新潟でやり直すの。」
「そうかあ、なんか短かったけど寂しなあ」と、オレ。
「本当にそう思ってくれてる?」
「勿論だよ。オレは唯ちゃんに会って今日までの一週間、久しぶり楽しみを味わえた。ホントにありがとう!」
「ねえ、ノリカズさん。握手して」と、唯は右手を出してきた。
「いいよ」と、オレも右手を出した。
柔らかで、やさしい手だった。先週初めてあった時の爪(オレは、あれがつけ爪であることも後で知った)も無く、美しかった。
「最後にね。良いこと教えてあげる」
「なに?」
「親指見て!爪の下の方に”半分のお月様”があるでしょ。それってね。爪の子供なの。爪はそこから成長するの!ネイリストは普通”ハーフムーン”って呼ぶのよ」
「ハーフムーンか」
「ワタシ、”ハーフムーン”から新潟でスタートするから」
「頑張れよ!と言っても、もうオレとは会うことはないと思うけどな」と、オレが言った瞬間。オレのスマホを取り上げ、ライン・アプリからQRコードでオレのアカウントをスキャンした。
「いいのかよ」
「ワタシからの”一方通行”だけだよ。だから、ノリカズさんからは返信しないでね」と、言い、「ワタシが成長したと思った時、必ずラインするから」と、唯は付け加えた。
「いつだろうな。その頃には唯ちゃん、きっと、オレのアドレスなんて削除してるさ」
と、言い返し笑った。
2人で駅に戻ってきた時サプライズがあった。
「じゃあ、行くね。バイバイ!」と言い、オレに抱き着き頬っぺたにキスをしてくれた。
そういえば、足の速い子だった。だから、オレが唖然としている間に、大きなスーツケースを転がしながらも、改札の向こう側へ行ってしまった。
「唯ちゃん、ありがとう!」と、最後にオレは叫んだ。
楽しかった、一週間が終わった時だった。
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この後のオレは変わった。オレは仕事に前向きになった。
そうしているうちに世の中も大きく変わった。
オレを会社で干してきたグループが、使途不明金を巡り、横領で逮捕者を出した。
その後、そのグループの連中は、左遷や退職となって行き、知らない間、年齢的にオレしか営業部長になるものがいなくなっていた。
そして、その数年後、其の儘、役員となり、専務取締役となった。
そして、65歳となった時、オレは従業員500名を超える会社の”取締役社長”となっていた。
”社長”がバツイチで独り者かって?
オレは再婚していた。年の離れた、”美人で気立ての良い女性”と。
<完>
今作も有難う御座いました。
次作の際もよろしくお願いします。




