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ハーフムーン  作者: 人生輝
3/7

3日目。

*** 3日目(水曜日)***

オレは、もう何十年も遅刻をしたことが無い。

確かに仕事は出来ないかもしれないが、出社は必ず始業時の1時間前だ。

雨でも、雪でも、どんな社会環境であろうとそれはポリシーとして守ってきた。


ところが今日はその”ポリシー”が崩れた。

昨夜、『村松唯』と居酒屋の前で別れたのが、午前1時過ぎであったことも全く覚えてなく、起きた時には既にいつも通勤で使っている電車が、地元駅をとっくに出発した後だった。かなりの二日酔いをしょって、会社に着いた時は、始業時の1分前であった。


「全てアイツのせいだ!」と、心の中で唯を恨み、今日、仮に唯と会っても「”絶対”に逃げる!」と誓っていた・・・。そのつもりだった。


定時に仕事が終わり、いつもの通り、新宿でJRから私鉄に乗り換える。

新宿で私鉄への乗り換えは、”乗り換え専用口”を利用している。そこを通り掛かった時だった。

最近、よく聞く若い女性の声が右斜め後方から聞こえた。


「ノリカズさーん!」、オレはまさかと思った。恐る恐る、右斜め後方に視線をやる。

「待ってたよ!」


当然だが、唯だった。昨日よりは、大人しい感じの服装とメイクだった。


「オイ、なんでいるんだ?」

「だって、昨日言ってたじゃん。定時で終われば、ここはこの時間に必ず通るって!」

「はあー?オレが言ったのか?」

「言ったから、今いまーす!」

オレは昨夜、唯と何を話したんだ!と、自問自答した。

覚えているのは、名前を聞いた辺りか?その後、オレは帰ると言った・・・はずだった。

良く分からない。

「で、どこ連れてってくれるの?」

「はい???」

「約束したじゃない。明日は地元じゃないところで一杯やろうって、嘘じゃないよねー。ノリカズさん?」

ダメだ。全くダメだ。オレはボケだしたのか?今ボケても、オレには介護してくれる人どころか、介護施設に入る金もない。「もういいや!」と、心で叫び開き直った。

「唯ちゃん、西口の高層ビルから、夜景でも見ようか?」

「やった!今日は奢って貰えるもんね!いっぱい食べて、飲むぞ!」

オレは、「なんて約束をしているんだ。もう飲まない。今日が最後だ。今日が最後。・・・」とずっと、つぶやきながら、オレが10数年前に、別れた女房と最後に食事をした西口のとあるビルの40階にある、エスニック料理屋に行くことにした。前回行ったのが10数年前だ。今あるとは限らない。寧ろ、無い可能性が高い。無ければ適当に理由をつけて、帰ることも出来るとオレは勝手に思っていた。


行ってみたら、10数年前と同じように、店は問題なく開店していた。


「ここいいね」

「そう、良かったよ。気に入って貰って」

「でも、味がね。ワタシ、パクチー苦手だし。」

「あっそ」と言った後、オレは笑った。唯も笑ったが、その後、窓の外を見る彼女が少し寂しそうに見えた。

「オレの気のせいか?」


その夜の食事代は俺が出したが、彼女は何一つオレに無理なことも言わず、当たり前だが、同じ電車で同じ地元へ向かって帰った。

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