2日目。
*** 2日目(火曜日)***
「ナカノさん、ノリカズさん!」と、聞き覚えのある声がする。
トラブル処理に時間が掛かった為、この日はオレにしては遅い帰宅だ。
8時半、オレは地元の駅に着いたところだった。
「また、アイツか?しかも、今日はオレの下の名前まで言ってやがる」と、改札を出て左側を見る。
「なんだありゃ?」と思うほど彼女の服装は凄かった。夏はもうとっくに終わっていると言うのに、白の薄いノースリーブで、胸の辺りも大きく開いている。下はショート系のパンツ、そして昨日以上に濃いメイクをしている。
オレは”気づいていないフリ”をして、その場を走って立ち去ろうしていた。
「駄目だよ!」と大きな声を出してオレを追ってくる。
駅のエントランスを出て、バス停の近くまで行ったところで、オレは彼女に捕まった。「コイツ、異常に脚が速い!」とオレはつぶやく、見た目と大違いだ。
「もう勘弁してくれないか、昨日で済んだだろ。定期については感謝している。爪のことは、オレが悪かった。申し訳ない。それで終わりにしてくれよ!」とオレ。
「別に昨日のことは、もうどうだっていいよ」
「じゃあなんだよ。言っておくがな、オレはお金無いからな。金目当てだったら全く意味ないぞ!」
「ワタシそんなこと言ってないよ。」
「いや、それぐらいしか考えられないだろ!どう見たって君は。オレはね、10年ちょっと前にカミサンに逃げられ、慰謝料も返し続け、会社でも窓際でいつクビになってもおかしくない『貧乏以上の貧乏中年』なんだよ!」と吐き捨てるように言った。
「誰もそんなこと思ってないし、聞いてもいないよ!」
「じゃあどういうことだ!」
「チョット、ナカノさんに付き合って貰いたいんだよ!」
「付き合う!ふざけんな!オレを馬鹿にするために付き合わせるのかよ!断る!」
「へえ、そう言う。『みなさーん、ここにいるナカノさんはワタシのお尻触ったんですよ!』」と、急に馬鹿でかい声で叫びだし、慌ててオレは彼女の口を手で覆った。
「判った!判った!で、何処へ付き合えばいいんだ?」
「あれ。」と彼女がさした方向には、チェーン店の居酒屋があった。
「このサワー、ヤバくない?」と、ヤツは言いながら勝手に飲むわ、食うわ、喋るわ。
”オレは本当に付いてない”、と心の底から自分を嘆いた。周りから見れば、「いい歳のオヤジが、この辺りのガールズバーか、キャバクラの若い女の子と同伴している」と見られるだろう。それはしょうがない。たぶんこの後、全ての飲食代をオレが払うだろう。それも、しょうがない。
ただオレは、何を言っているかわからない話をヤツから聞いても、オレ自身が楽しめない。
全く割の悪い話だ。
もう1時間ぐらい経っただろうか、ヤツの話しにオレが少し興味を持った。言い方がイマドキの為、キチンとは理解できなかったが、「友達を交通事故で亡くした」話だった。
全くいい話ではなかったが、「そう言えばオレの友達で、彼女が自動車事故で死んだ奴がいたな」と自分の昔を思い出した。
「確か、そいつも彼女もオレの中学時代の同級生だったはずだ。」
オレがそう思っている間も、ヤツは勝手に喋って飲んでいる。オレはヤツの話なんかどうでもいいので、自分の昔の事を思い出そうとしていた。
「名前だよな。男は水島・・・そうだ。水島だ!アイツ、高校出た後アメリカへ行ったって聞いたな。」
ヤツは焼き鳥を食いだした。
「女の方だよな・・・。名前なんだっけ。えっと、そうだなんか、雑誌かなんかに出てたな。モデルだ!モデルだったな。名前だよな・・・、イイジマ?そうだ、飯島だ。問題は下だ。えっと、カオリ?違う、ヨウコ、いや違うな、クミコ?近い、分かった『クニコだ!』」といつの間にか大声でオレは言っていた。
「なんで、知ってるの?」と奴が聞いてきた。
「えっ、誰?」
「今、クニコって言ったでしょ。」
「ああ」
「正解。ワタシの亡くなったお婆ちゃんの名前。正解だよん!凄いよ。ノリカズさん!」
良く判らないが、ヤツはオレに問題出していたようだ。非常にどちらも不謹慎な話で、亡くなられた方には心からご冥福とお詫びを申し上げたいと深く思い反省した。
しかし、「不謹慎な2つの話」は本当に不謹慎だったが、オレ達の会話で唯一共通した話題となった。
「考えてみたら、君の名前聞いてなかったな」
「さっき言ったよ、聞いてなかったの?ナカノさん」
「悪かった。ゴメン。聞いてませんでした。」
「『村松唯』だよ。どうせ聞いてなかったと思うんで、ついでに言うけど。歳は24だよ。仕事はネイリストしてる。」
「ネイリスト。だから爪を気にしたのかあ」
「まあね。で、もう一杯飲む?」と唯。
「帰るよ。」、とオレ。
もうそこそこ遅い時間になっていた。
そして、会計はキチンと割り勘で終了した。




