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ハーフムーン  作者: 人生輝
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1日目。

人生輝と申します。

先日まで「虹橋の向こう側」という駄作をこちらで発表させて戴きました。

その際、登場人物の中で1人だけ40年前の1シーン、それも、主人公の自転車を自分の家の駐車場に置かせてやっただけのキャラクターがおりました。それが「中野紀一」です。

「虹橋の向こう側」では、彼以外全員、40年後の設定をはっきりさせております。

筆者が忘れる位地味な設定だった「中野紀一」を今回主役としてストーリーを作ってみました。

「虹橋・・・」のスピンオフと考えて頂いても良いショートストーリーです。宜しくお願い致します。

***1日目(月曜日)***

「ナカノさーん!」

オレが丁度改札を出たところだった。

全く聞き覚えのない若い女性の声が、オレの後方から聞こえた。


私鉄沿線の新興住宅地、高尾山の手前にある駅だ。

オレの名前は”中野紀一”。歳は今年で56歳になる。

10数年前、女房に離婚され1人娘と出て行かれてから、この街のアパートに1人で住んでいる。

仕事は都心にある中堅電機メーカーで品質管理課の課長をやっている。と言っても、殆ど”窓際”状態で、毎日決まった仕事と、突然来るクレーム処理だけをこなし定時に帰る。定年まで、後9年程あるが、いつ”戦力外通告”を受けるかビクビクしながら生きる、”しがないサラリーマン”だ。


その日もオレはいつもと変わらず、退社後、2時間近い道のり経て家路に着く所だった。

「ねえ。ナカノさんてば!」

この時、オレの周りには恐らく100人前後の人がいたと思う。オレは心の中では、「”ナカノ”なんて他にもいるだろ!」と思い先を急いだ。しかし、その声がオレの動き以上に早く追っ掛けてくる。


「ナカノさん、無視しないでよ」と、言われオレは振り返った。


そこに居たのは、未だ20代前半ぐらいでロングの髪を金髪に染めた、いわゆる”ギャル系”の女だった。


「ナカノさん、これ」と、その”ギャル”はオレの定期入れを持っていた。

そうかそう言うことだったのか、不覚にもオレが定期入れを落とし、拾った定期を見てオレの名前が「ナカノ」だと分かったのか。

「ああ、すみません。どうも」と、オレが言った後だった。

「あのさ、拾って貰ったのに、”すみません”、”どうも”しか言えないの!」と強い調子で言ってきた。

「えっ?」

「拾って貰った人には、”ありがとう”でしょ!”あ・り・が・と・う”」


どうでもいいが、この”ギャル女”物凄く声が大きい。ここは駅のエントランスだ。周りの視線も気になる。

兎に角、事を早く収めたいオレは、


「そうですね。”ありがとうございました”」と言い、定期入れを受け取った。だが、また問題が起きた。

「チョット、ワタシの爪。その定期入れとPASMOの間に引っ掛かって割れたじゃない!」

「なんだって?」と、彼女を覗くと、オレがみたこともない、魔法使いの婆さんみたいな長さ、そしてまた、目が痛くなりそうなカラフルな絵柄の爪を見せ、

「左の人差し指だよ!真ん中から割れてるよ!ナカノさんのせいだよ!」


申し訳ないが、オレからするとそんなに大事なことなのか?と思っていた。実際見る限り、気持ち0.01ミリあるかないか程度の”割れ”だった。とはいえ、これ以上関わりたくないオレは、ひたすら謝り、この場を去ろうとした。


「いや。申し訳ありません。この定期入れ古くて、PASMOも無理矢理入れているんでどうしても隙間狭くなっちゃいまして。ご迷惑掛けて本当にすみません」と、謝れるだけ、謝った。


「ふふ、もういいよ。ナカノさん。素直なんで許してあげるよ、じゃね!」と言い、オレが帰る方向と逆側へ歩いて行った。


オレは物凄く腹が立った。

「オレはあんなガキにも馬鹿にされている。」と思うと情けなくなった。


その後オレはいつも通り、コンビニで弁当を買い、腹立たしかったので、ついでに缶酎ハイ3本買って、一人アパートへと戻った。

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