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〇〇七

 任務の報告を終えパーティーメンバーが待機している来客室に来たエイは手短に終わらせる。


「今日、明日は休みだとよ」


 エイから発せられた事を聞きリリスは眼の色変えた。休みというのは無い訳ではないだろうに何故彼女はそう反応するのか。


「ほんと!? じ、じゃあさ、明日でーとしようよ」


 彼女から発せられたのはこの世界の発祥ではない。エイらより輸入されたものではなく尤前の時にこの世界に伝えられた言葉である。


「ああ、分かった」


 エイは了承した。元よりそうなる事は念頭に置いてあった。先程兄より許可を得られた事により彼女とのデートも多少は必要である。


 一緒にいるという事が。


「ほんと! やった~」


「うわー、ロリコン」


 ロリコン。

 それはロリータ・コンプレックスの略称。ローティーン——一五歳未満——以前の女性に特別な感情を抱くことである。


 しかしエイはそのような特別な感情など抱いてなどいない。邪な感情など全くない。そう、全くない、彼は。

 リリスはあるが。彼女の特別な感情は依存心から来るそれではあるのだが。


「は? 誰がだよ。狂信者」


 平行線を辿る。


 狂人同士の言い争いは長くは続かない。元より二人は話そうなどしてなどいない。


「自覚してるくせに。ロリコン」


 ため息を吐きこの場を終わらせる。



 翌日。

 朝早くから彼らはデートをしている。城塞都市には物の流通が多い。その為様々な所を回った。

 愉しい時間は早く終わってしまう。


 太陽が地平線の彼方に沈み掛け黄昏の時間帯。


「ひさしぶり、だよね。こうしてふたりきりで街をあるくの」


 本日を思い返してリリスは言った。平和な時は後どれくらいの先にやって来るのか分からない。


 もう、来ないかも知れない。


「あーそうだな。今に思い返せば急ぎ過ぎたかもしれないしな」


 命令に絶対に従う彼。しかし従順し過ぎるのも彼の悪い点とも言えてしまうのではないか。何も疑わずに命令を遂行する。


 そんな彼は任務に就く。


「おい、貴様ら」


 そんな声が前方より掛けられた。二人は彼の独特の雰囲気で既に気づいていた。


「これはベルトネ様。御供をお連れにならずにどう致しましたか」


 無駄な程脂肪が付き過ぎていると言っても過言ではないシリルが息を切らしながらやって来た。

 彼は一体何の目的があってエイとリリスの前に出て来たのか。


「リリス、出てこい!」


 シリルはエイの後ろに隠れているリリスが目当てである。どのような理由があるのか当事者である彼らは解っている。


「そんな大声は出さずとも聞こえますよ」


 嘲笑気味に言う。エイは相手が元大貴族を理解しておりそのように言っている。彼の目的上相手がシリルである為に構わない。


 その為に相手を馬鹿にする。


「煩いっ」


 しかし、想像以上に彼は怒っている。元より怒りを抱いていた為にこれ程までに怒ってしまっている。


「——ひっ」


 ここまでリリスが怖がるとは一体どういう関係なのか。初めて見る者ならば可笑しくも思うだろう。

 なんせ彼女は〈迷い星〉の一員なのだ。Ⅵ級に至るまで多くの冒険をして来た筈だと言うのに。


「そいつは私の物だろ!」


 シリルが言ってることは過去の話。元所有物であるのに今さら所有者ぶりをするのも彼が今、置かれている状況を見れば致し方ないのだ。


 先日、屋敷に賊が入り、貴重な宝物を幾つも盗まれてしまっている現状。


「何をおっしゃると思えばそのような御託。貴方の『奴隷』には印があるでしょ? しかしリリスにはありませんよ」


 シリルは己のものには必ず焼き印を入れる。その為一度でも彼の奴隷になってしまったら身体のどこかに印があるはずだ。


「何を言ってる」


 昔はあった。しかし今はそのようなものはリリスの身体にはない。エイらの技術力を以てすればそのような物を消すのは容易な事であるのだ。


「簡単な事。その箇所を取り除き回復魔法を使えば良いだけの事」


「——ッ」


 驚きを隠せない。

 そんな事をわざわざ奴隷に施す理由が分からない。


「知っていますか。自分は貴方様を殺せるんですよ。上級貴族たる貴方はこの新国家では通用しない」


 エイが言っている事を理解出来ていない。シリルには才も無ければ脳もないその者にはまだ、理解していない。


 そして同時に信じたくない。信じようとしていない。


「何を馬鹿な事を言ってる」


「ハハハ、俺ってこう見えて結構優しい方なんですよ。〈影喰い〉」


 エイの言葉に影が蠢き出す。

 そしてその影はシリルの影の腕の部分を噛み千切った。


 それとほぼ同時にシリルは己の影が消えた箇所を抑える。痛みに必死に耐えようとする彼を視て。


「痛み。嗚呼、素晴らしい。絶叫。叫び」


「……くるってる……」


「俺が狂人? それこそが狂人の戯言ではないか」


 自らを優しいと呼び。痛みに悶える者を見て嬉々としている。そんなエイを狂人と呼んで何が可笑しい。

 しかし彼は否定する。


「俺以外が狂人だからこそそういう答えに至るだけ」


 エイは口の端を吊り上げながらそう言った。


「さあ、尤。尤。叫びを」


 影は動き少しずつシリルの影を喰らって行く。


「や止めろ! 富なら好きなだけやる! それにお前が欲しい物ならベルトネ家に誓い用意する」


 命乞い。その声に狂人は笑う。


「良いね~。その声。その影。美味しそうだ」


 影に喰われた箇所の機能は痛みと共に失われていく。心臓を喰らえば痛みが過ぎた頃には機能を止め動きを止める。


 全てを喰らえば死体へとなる。死亡した原因は不明で終わる。


「あーあ——さ、行こうか」


 人を一人殺したというのに彼は気にしてなどいない。

 死体は好きではない。はっきり言えば死体は嫌いなのだ。彼は死する前に鳴る声が好きであるだけ。


「う、うん」


 リリスもそこまで気にはしない。シリルの事は嫌いである。彼からやられた事を思い返せば当たり前の事である。


「ワタシの飼い主はエイだからね」


「あー、はいはい」


 嬉しさのあまりかリリスは彼の唇を奪う。

 食後は気が緩む。それを知っているからこそこの時を待っていた。

 そう錯覚させた。


 寸前のところでエイは自分の口を手で覆う。


 手で口を塞ぐことにより難を逃れたエイは安堵の息を漏らす。危ういところを逃れた為に漏らした物ではない。


「むぅ」


「止めてくれない」


 本気にそう思う。幾度となくやられて来てそれと同じだけ寸前の所で全てを防ぐという偉業を為せるのは仕掛けがあるからである。


 しかしそれは他人に言えるような物ではない。禁句とされており口にすれば死が向かいに来る。


「何で?」


 何でと問われてもなんと言えば良いのか。エイには分からない。禁句を言わずにどうやり過ごすか。


「子供を相手にする訳ないだろ」


「子供じゃないもん。子供じゃ」


 確かに人間種の歳では子供に当たるがリリスの種族を考慮すれば子供とは言い切れない節がある。


「はいはい。もう止めろよ」


 今日は長すぎた。

 何度も何度もリリスはこうもやって来る。


 どのような時であろうとも隙があれば攻める。それがリリスの特長である。肉体的な疲労はなくても精神の方はそう無事ではなかった。


 もし、やり直すのであるならデートなどせずにただ、標的の抹消を行うという手も無くはなかったのだが、それはそれは何かと良い訳がしづらい。

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