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〇〇三

 遅れて来たというにも関わらず何故彼女はこれほどまでに悪気が無いのだろうか。

 先程白と紅の狐の面を付け、ローブを着た者がやって来たのだ。


「呼ばれて来たんですけど。何ですか」


 仮面を付けていても女性の声だと分かる。それに口の所が空いていないにも関わらず彼女の声は籠っていない。


「これは殿下、お久しぶりです。前に会った時は——」


 アルベルトは久しぶりに会ったからそのような事を言っていない。彼女のご機嫌取りでもなければでは一体何だろうか。

 無駄口を叩いただけである。


「あ、そういうの良いから。で、わざわざわたしを呼んだ訳は何ですか」


 エイは彼女の頭にチョップを喰らわせた。そのような事をしても全くブレない狐の面は云うまでもなく魔法具の一種である。

 魔法器と魔法具と呼ばれる物がある。今の技術で作成できる物が魔法具であり、そうではない物を魔法器と呼んでいる。


「——ッ、何すんの!」


「調子に乗るな。それにお前の依頼でもあるんだろ」


 エイの声には少しではあるが怒りが混じっている。何故そのような感情が混じっているのか。それは兄としたう相手であり、そして上官の前でここまで調子に乗っている阿呆を赦せなかった、という理由より手が出てしまったのだ。


「いやぁ、主より承った命従い行動をする。それがわたし達の御勤め。それに同盟関係であるから手を貸すのは必須」


 王女の口調とは思えぬ口調にエイは頭を抑えたくなる手を必死に堪える。どれほど言っていても彼女の態度は変わらなかった。


「…………」


「兄さん、彼女が」


 予めエイは何か失態を犯す事があるかもしれないと言ってはいたもののやはり起こってしまうともなれば気が引けてしまう。ヨルの背後にいるヤミからは無言の殺意が放たれているのだ。


「正憤教司教『正義』を承っているマリア・デュッカ・クデュ・メルクーリ。王国では第二王女とされています」


 エイに促され渋々自己紹介をした。正憤教の司教という地位を授かれており尚且つ『正義』と名乗る事が許された存在。


「なあ、魔導書を見せてくれないか。まだ、魔導書をこの目で見、この手で触っていないんだよな」


「は? 何言ってるの、こいつ」


 マリアのそんな態度に少しではあるがヨルは警戒してしまう。情報が正しいのであるのならば彼女の機嫌を損ねると何か不運が起こってしまう。

 ならばご機嫌をとり失態を起こさぬようしなければならない、と考える。


「まあまあ、落ち着けって。ここは兄さんが悪い」


 この場を戦場と化したくないエイは仲裁に入る。だが、彼はマリア側に就いた。何が至らなかったのかエイは分かっているからだ。


「おいおい、兄を愚弄するのか。まさか……思春期かっ」


 兄から発せられた軽口とは思っていても呆けてしまう。思春期など来なかった。それにこれからも来ないであろうそれは……。


「はあ、こいつの魔導書は他人に貸し、見せれるような状態になっていないから」


 エイは分かっている。彼女が魔導書を渡さない理由を。


 エイは知っている。彼女が魔導書を見せれない理由を。


「は!? な何言ってるんだし。みせれるしっ。ふふふつうに見せれるしっ」


 マリアの動揺からも察する事ができる。何かがあると。しかしそれを確かめる事は不可能である。これは彼女のプライバシーに関わる問題であるからだ。


「なら、ほら」


 だが、エイにとっては彼女の一個人のプライバシーなど気にはならない。彼はそれを知っているからこその利点ではある。

 強気に出るエイ。それに反するようにマリアは。


「…………今度にしてくれない」


 そんな二人の光景をヨルは微笑ましい笑顔見る。コミュニケーション能力が低いと思っていたが難なく任務を遂行……いや、エイは任務だからこそこうも他人とコミュニケーションを図っていると考えた方が合っている。


「仲良いんだな。あのお前がここまで他人と愉しそうにしているのをみると微笑ましくなるな」


 ヨル達は今現在自分らの生存と保身に害を為す危険性のあるのは『正憤教』という宗教団体だと思っている。

 その為彼らは正憤教という脅威を知る為情報収集を並行して行っている最中である。『聖戦』の覇者たるものを知る為に。


「もう良いだろ、兄さんっ。本題に入ろう」


 怒った、という訳ではない。これ以上の詮索はこれより先に支障を来す可能性が出てきた為に遠回りし過ぎてきた話を戻すことにした。


「ああ、分かった。んじゃ、まずは二人から先程の戦闘の詳細を教えてくれ」


 無理矢理にも程があるなどと茶々を入れる者はこの場にはいない。


 エイは姿勢を正し、口を開く。


「了解。まず、我が〈迷い星〉は——」


 今回の戦争の城塞都市を包囲網の崩壊をした作戦の詳細を語り出す。



 会議場を出たシリルは怒っている。


「糞ッ。あんなモノがッ」


 彼の後を付き歩いているメイド三人、騎士二人は自分らの主人が何故怒っているか解らない。解らないという事は自分らではその怒りを抑えるには方法が一つしかないと決めつける。ベルトネ家


「ベルトネ様、何かと準備があるかと思いますので侍女を一人先に帰らした方が宜しいかと思いますが」


「ああ、そうだな。7、お前が行け」


「かしこまりました」


 後ろにいた7と呼ばれたメイド服の女性が恭しくお辞儀した。その顔はいくつもの感情が含まれており、笑顔に帰結している


 屋敷に戻ると幾人ものメイドが出迎える。が皆の表情は7と呼ばれた女性のあの時の笑顔と同じようなものである。


 屋敷に着き、彼が向かった先は言うまでもない。地下室である。

 二階に上がり、寝室の隠し扉を開け螺旋階段を下っていく。すると特殊金属で出来た扉に着く。

 その扉を抜けると豪華なベッドが置かれている部屋がある。ベッドの上に端正な顔つき、容姿も悪くない女性が全裸で待っていた。

 彼女は知っているこれから起こる事を。自分にやってくる物を。


 彼が好きなのは死んでまだ、温かい屍を抱く事なのである。本家を追放されて彼自身能も学もないはずの彼が何故富はあるのか。

 ある魔法器を持っているからである。錬金術という禁呪を可能とするものである。


 だが、彼では能力に欠けるため数日で元に戻ってしまう。例えば一グラムの金を作るには二十日をようし、二、三日で元のものに返ってしまう。

 シリルはそれを持ち出したからこそ追放された今でも富を持ち、高い奴隷を殺しまくってきている。


 一人、二人と彼の気が済むまで殴り殴り殴り、殺しそして抱くであろう。嗚呼、なんとも強欲で傲慢な男であろうか。


「ベルトネ様は今、何をしている」


 シリルの護衛として雇われている騎士がメイドに話掛ける。


「屍を止めコレクションに手を掛けています」


 地下室に入る事を赦されているのは女のみ。彼女は今し方その場所よりお役目を終わらせて来たばかりである。


 臭いがする為水浴びをいつもならするだろう。もし、浴びずにシリルに会った場合屍と化し辱められる。

 その為『いつも』なら水浴びをする。


 では何故今日に限って浴びずに騎士と密会をしているのだろうか。勿論彼が彼女に何かをする訳ではない。


「そうか。ではやるとするか」


 シリルが大事に取っておいているコレクションと呼ばれる女を相手にしているという事は彼は怒りを納めていることである。

 ならば今こそ作戦を実行に移すという事である。


「そうですね」


 彼らは企んでいる。

 この屋敷にしかなく。この屋敷の主人ぐらいしか扱えないが


「あれが居れば尤早く出来たのにな」


「そうですね49が居れば尤早く出来ましたのに」


 49と呼ばれる少女は今はもういない。49の身体にはある物が仕込まれている。口付けなどをすれば死ぬという物が。

 毒を盛るのは手が掛かるが抱いている時であれば容易に行える。


 なら、他のモノに仕込めばいいと思うかもしれないがそれは不可能に等しい。


 49と呼ばれる少女は特殊な種族であり体内に取り込んだ毒などを自分のものとし、隠密性に特化させれる。


「ああ、残念だ」


 二人は笑いながらこの屋敷に隠されている秘宝を取り返す為に行動を開始する。


 そう、彼らは別にシリルを殺そうと思ったりなど微塵も思っていない。彼らはシリルには生きてもらわなくてはいけない理由も存在している。


 それは『魔法器』を使用する為である。

 シリル以外にそれを使用出来る者は残念な事に今はいない。見つかっていないと表記した方が正しいだろう。


 その為彼を殺さずに生かしておく。

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