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〇〇二

 アルベルトの指示に従いそれぞれ自分の陣営へと戻り今、この会議場にはヨルとアルベルトの二人に加え紺のスーツを着た長い黒髪の美女——ヨルの秘書官のヤミである。


「これからはどう致しますか」


 ヤミは先ほどのような茶番劇を行うヨルの事を心配している。魔法という理解不可能なものがある世界においてもしあそこにヨルを殺そうとする者が居たかもしれない。


 どんなに警備を使用とも命を顧みずに襲ってくる相手に必ず通用する警備などないと痛い程彼女は知っている。

 なので彼女の視線には強い意志が込められている。


「まあ、王女様を出迎えてから周辺国家への書状を書き新国家を建国するが良い名はないのか」


 だが、ヤミの視線に隠されているであろうことには気を留めない。ヨルにはヨルなりにやらなければことを最優先事項としてやっているに過ぎないのだ。


 まずは王国よりこの城塞都市を独立させ国を建国し、そしてその国で自活できるようにする。これが彼が行わなければならない事である。


「そうですね……多種族混合国家——イ・ガラン共和国はどうですかね」


「良いんじゃね」


「はあ……」


 一応アルベルトは名前を考えていた。しかしながらこうもあっさりと認められるとは思っていなかった。

 ヨルという青年を知っている為かヤミは何も言わなかった。

 ここでふと、アルベルトは気づいた。


(国の名前など不必要ということなのか…)


 国の名前は重要と考え過ぎていた己にため息を漏らす。彼のそういった事など二人は気に留めず迫って来る足音に耳を向けている。


 とそこへドアを二回ノックする音が聞こえて来た。

 魔法により時を刻む時計を見て時間通りだ、とヨルは頷き入るよう促した。

 入って来たのは黒色を基とし白色も少し混ざっている髪で中背中肉の少年——エイである。


「兄さんにアルベルト王、任務完了致しました」


 エイは敬礼した。彼は幼少の頃よりこのように上官には接するよう教育されていた。言葉遣いでも矯正はされてはいるが義兄に対する対応は堅く、上官には緩い。だが、そのような事でヨルは気にも留めない。


「お疲れ。? 王女様はどちらに」


 この場に召喚されたのはエイとマリアの二人である。上官への報告をしなければならないエイとは違いそのような義務感のないマリアは自分がしなければならない事を優先し他を気にしない。


「ああ、教会に祈って来ると言っていました」


「はあ、無神論者の俺らにしたら時間の無駄と言いたいがな」


 マリアの行動倫理に理解できないと二人は『無神論者』という理由で否定する。しかしそのような二人とは違いアルベルトは神という存在を肯定し、彼もまた『正憤教』の使徒であるのだ。


「殿下は司教の地位を授かれている身。こちら側に引き入れた時点でこういう事が起こる事は想定済み。これからもこういう事もある事を念頭に置いておいた方が良いだろう」


「こういっちゃ悪いが解んないんだよな——『正憤教』というもの」


 ヨルには理解出来ない部分が正憤教たる宗教組織を理解する事は彼に蓄えられている知識により否定されているのだ。


「聖戦生き残った最後の一人が創設した宗教団体。それが『正憤教』。これは解っているな」


 聖戦とは今からおよそ三千年前に起こった全種族——一〇八の種族による戦争である。それに生き残った唯一のものこそが彼の宗教の創設者。


「まあ、そのくらいはな」


 彼の内心は口とどうかは別としてこの場での会話の内容はヨルの後ろに控えているヤミが記録している。

 なので後でそれを見れば良いと決め頷いたのである。もし、その時分からない事があれば聞けばよいと決めつけての行動であった。


「兄さん、もう少しは世情に興味を示してください」


「そして正憤教の主、つまり創設者が司教と呼ばれる者に福音と称される魔導書を授けた」


 三千という刻は神であろうとも死するのではないか。寿命というものは生あるものに付きまとうものではないのか。


「御尊命と?」


「違うよ。と言っても生きているとも死んでいるとでも言うそうだよ。神々により肉体が終わらされ、精神体となり果てたらしい」


「これは良い事を聞いた」


 エイの言い方には気になるものの彼は何かを報告する時は憶測などは口にしない。そういったことを知っているヨルとは違いアルベルトは知らない。


 エイから持たされた主の情報を得た事に嬉々としている。


「なら、彼奴に聞けば良いだろ。信仰を増やす為ならある程度の事はする奴だからな」


 アルベルトのそんな言動が面白かったのか王女の行動原理からすれば彼のように主への信仰心を増やせる者であるならば司教という立場より何かを行うに違いない。そう思ってるが故にそんな冗談を述べた。


「その時は同席してくれるか」


 もし、そうしてくれるならアルベルトは司教との会談は行う。しかしそれが願わないなら何かいい盾を見つけるまでは王女とはそういう会話はしない。


「……正憤教以外の話なら良いけど」


「二人共避けるのはやはり『狂信者』だからか」


 エイの答えを聞き鼻で笑う。ヨルには見たことはないものの従順なエイから来る確固たる信頼できる情報を脳裏に浮かべたが故に笑ったのだ。


 だが、ヨルはそれを口に出そうとはしてなかった。


「そうだよ、兄さん。彼奴頭狂ってるから気を付けた方が良い。主を悪く言えば死ぬ」


「試した事あるのか」


 エイが言った最後の箇所には鬼気迫る雰囲気が出ていた。彼をそうさせるまでに起こった出来事が気にはなるがそれを聞くにはこの場は合っていない。


「口を滑らして……夜だったのが何よりの幸運でした」


 ヨルの内心を呼んだのか最小限の事でこの場を済ませる。そうエイは考えたがまだ、時間もある事。それにこれ以上脱線をさせていては話は進まない。

 そういう事もあり最小限に留めておき話題を膨らまわせる方向に変える。


「つまり戦略級が?」


 ヨルの知識上それが最大であった。彼にはしがらみ、無駄なほど否定する情報が多い過ぎるが故の現象である。

 戦略級、つまり戦略級魔法とは『一つの戦争を左右する』事の出来る魔法である。


「いえ、世界級でしたよ」


 そして世界級魔法ともなれば『一度の使用で世界の法を変える』事の出来る魔法となる。だが、それを発動したにも関わらず何故彼は尊命なのか。

 謎が増える彼ら。


「なんと!? 世界級魔法から逃げたと」


 急な反応。アルベルトのそんな異常すぎる反応に彼らは引き攣った笑顔を作る。そこまでに彼らの価値観からすると彼の言動は可笑し過ぎるのだ。


 だが、そのような彼らの失態は一瞬で消えた。


「ええ、まあ、世界級だしたけど威力が下げられていましたので」


 多寡だか世界の法を改変を可能するだけの事で何故そこまで異常な高ぶりが出来るのか彼らの価値観はどこまでこの世界に通用できるのか。

 そんな事が気にかかってしまう。


「しかし、ほんとにⅥ級冒険者なのか。もはや、Ⅷ——いやⅩ級にも至るのではないか」


 冒険者チーム〈迷い星〉はⅥ級冒険者として名が知れている。だが、世界級魔法を使えるともなればそれはもはや聖戦にいた『英雄』と呼ばれていた者達ではないのか。そうアルベルトは考えてしまう。


「伝説の領域にはまだ、ほど遠いですよ。自分らはまだまだ未熟者です。魔法においても他の面も」


 自尊しているという訳ではない。エイは己の至らぬ事を理解している。それ故このように言った。世界級魔法ぐらいならばやりようによれば対処は簡単である。

 エイには彼の世界級魔法ならばある系統以外のものであるならば能力を使用すればなんなく対処が可能である。


「事が済めばランク上げを考えても良いか」


「いや、これ以上は止めておいた方が良いだろ。これ以上冒険者として名声を上げられてしまってはこれからの行動に支障が生じる可能性があるだろ」


 ヨルの作戦ではエイをこれから建国する国の兵にしようとしているのだ。それ故、冒険者としての名声はこれ以上は不要とも言えてしまう。

 周辺諸国がそういった下らない理由で戦争を起こす可能性を極力減らしたいと考えている為である。


「だが、冒険者……。いや、違うのか」


「自分は兄さんの命令であるならそれに従います。それにアルベルトは国をどうしようとお考えでしょうか」


 これは重要な事である。国王となる者の考えを知る事によりこれからの命令にどう従うか決まってくる。


「……種族を超える平等社会」


「平等、ねえ」


 平等社会というものは存在しないと彼らは知っている。それ故彼の叶わない事を観察する事も悪くないと考える始末である。

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