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〇〇一

 ここはフィオリ王国の東西南北にある四大城塞都市が一つ東に位置するシェイ・フープと呼ばれる城塞都市である。


 ただ今フィオリ王国は戦争中ともあり殺気だっている。戦争といっても当事者の者達が呼んでいるだけである。わざわざ守備の高い城塞都市を攻める者は数少ない。

 近くにある都市を幾つも陥落されており、ここシェイ・フープは四方八方を囲まれている状況下にある。この城塞都市の陥落は時間の問題となってしまっている。


 こんな状況になったのは都市長が怠惰であったから、という訳ではない。究極的にはそうなってしまうかもしれないが内情を知っている者にとっては起こるべくして起こった事である。


「——付近の都市が次々に敵の手に落ちています!」


 この男がこの都市に逃げ込んでから毎日言っている言葉である。勿論、それは彼だけでなく他の亡命者は皆、同じように言っている。口には出さなくても心中はお察しする。


「分かっておる」


 こんな状況に陥ったはずの都市の都市長が全く危機感を抱いていない事に城塞都市に集まっている各都市長、貴族の者達は限界を迎えている。


「何か策でもあるのか」


 どんなに穏やかな者であろうとも包囲されてから一月が経とうとしている今、もう限界であろう。その間何もしないのは愚の骨頂。それなのに城塞都市長はこの一月何も行動を起こしていない。


「ああ、あるぞ。ない訳ないだろう」


 城塞都市長は鼻で笑った。

 城塞都市を任される程の才を持つ彼はもう、この地位に就いてから十年近くになる。そんな彼が小さな都市を任されている都市長如きに知略において後れを取る訳が無い。


 そんな事も分からないから数日で都市を攻め落されてしまうのだろうか。


「なら、さっさと言ったらどうだ」


 彼の意見も尤もだ。

 自分達の知恵ではどんなに結び付けようともこの状況を打開できる策が思いつかない。たったそれだけの理由であるのなら城塞都市長であろうとも教えただろう。


 別の理由がある。勿論そういう事は教えない。


「そうだ。貴様が勝てると言ったからついたんだぞ」


 この場にいる者達はこの最も国に重大な城塞都市を任されている彼だからこそ王国転覆という計画に手を貸しているのだ。


「まさか……我々が裏切っているとでも思ってるのか!?」


 ふと、そんな事をこの場で一番位の高い貴族が言った。彼の浅はかな考えは口に出すのもおぞましい。


「信用などする訳ないだろ。お前らのように直ぐ領地を捨てここに来た輩など信用する訳なかろうが」


 この会議は都市長館で行われている訳ではない。そういう事もありシェイ・フープ都市長——アルベルド・フォン・ベレキンドラスは目の前にいる無能共の事は信用の「し」の字も信用していない。否、する訳が無い。


 ドアをトントンと二回叩く音がする。


「おひさー」


 その声と共に一人の青年が入って来た。

 それなりの重職に就いていた者達が居る会議の中に入る際そのように入って行くなど承知の沙汰とは思われないだろ。


 空気が一瞬で変わる。口調はふざけていようとも服装は違う。彼らは見た事のない高級な衣装である。何で出来ているのか解らない。それ程の者を身に付けている謎の青年。


「これはお出迎え出来なく申し訳ございませんでした、ヨル殿」


 アルベルトは青年——ヨルの顔を見るなり立ち上がり一礼した。彼ともあろう者が頭が上がらない相手。

 そうなれば馬鹿でも無能でも察するだろう。


「貴殿が来たという事は漸く包囲網を崩壊させる事にした、という事でよろしいでしょうか」


「ああ、義弟が頑張ってくれたからな」


 どこからどう見ても彼らの言動には芝居がかかっている。

 警戒心を高める彼らを余所に彼らは続ける。


 彼ら——アルベルトとヨルと呼ばれる青年——は一体何を考えているのか二人以外は考えようとする。何か掴まなくてはいけないという勘に導かれるかの如く思考する。が、二人は考えついていただろう。彼らの浅はかな考えは。


「ほう、義弟と言いますと——〈迷い星〉がですかね」


 一機に立ち上がる。彼が言った事を事前に聞いていなかったら皆が盛大に立ち上がり罵倒を口走っていただろう。罵倒には至らなくても思った事を口々に言ってしまっていただろう。


「——狂ったか!」

「——何を考えている!」

「——降りる‼」


 皆一つの単語から声を荒げた。この場には五人の元都市長、上級貴族三人、下級貴族一四人居る。半数以上の者がこの勝ち目がある戦争より降りると言った。


 そう、勝ち目は見えたのだ。


 上級冒険者チーム〈迷い星〉が手を貸している今、この王国との戦いには歯止めを付ける事が可能である。しかし、それは一時的な物となってしまう。

 冒険者を国家間の戦争に巻き込むとなると周辺国家の面々が黙っていない。それにもし、敵側も冒険者を介入させれば勝ち目は無くなってしまうだろう。


「では、どうぞ」


 アルベルトは去って行く者を止めやしない。

 反対者であろうともこの場をさろうとはしないのは無能ではないからである。


「下級三に上級二、都市長レベルは二、か」


 ヨルはこの場に残っている者を数えた。階級が上がれば富に余裕ができ子を育てるのにそれだけ掛けられる。勿論、才は必要ではあるがそこは遺伝という物に賭ける。それか養子でもすれば良いだけの話。


 故に上級貴族の方が何よりも才が秀でている。そのはずだというのに育ちが変われば考え方も変わって行く。


「思ったより残ったな」


「そうですね。こちらの仕事が減って助かりますよ。それで使えるのは?」


 アルベルトは全員が去っていても構わないと考えていた。事実、元都市長、上下級貴族という者は殺しその部下を手に入れる方が何かと便利である。そう考えていた。

 しかし以前二人の話合いの結果去らないのであるならば使い潰そうという事となった。主にヨルが提案したのだ。それを止む無く肯定した。


「下級の方が使える」


「へー、珍しいな」


「下級の方が平民を連れて来れていますから。能力面では劣ってもそこは矯正できますから」


 幼少の頃からお金を掛けまくっているはずの上級貴族が劣るということに疑問が生じたが将来性を考慮すれば下級貴族を叩きなおせば使えるという事である。

 なので上級貴族より下級貴族の方が使えるという答えに至った。

 位が高く為ればそれを保とうとする。先祖がやってきたように身分が低い連中のことなど道具のように扱ってきたツケが返って来たのか。


 だが、今となってそんな事を考えている訳にはいかない。彼ら上級貴族達は己の保身と安全の為に動くしかないのだ。今、上級貴族は後悔するよりこれからの彼らへの付き合いを考えるのが先なのだ。


 ふと一人の都市長が青くなった顔で口を幾度か開閉させ言葉を発する。


「……出て行った奴らは死んだのか」


 顔色を悪くした都市長——ファージが呟いた。彼はそう考えた為にこの場を去らなかった。いや、去れなかった。そう表記した方が合っているだろう。

 二、三人は彼と同じように考えていた。ならば他の者達はどうであったのか。


 ——何も出来なかった。

 恐怖という負の感情により身体が支配され身動きが不可能という状態に陥ってしまっていた。


「そりゃあそうでしょ。入って来る者は歓迎し、去って行く者にはもう、此方へは戻れなくしなくてはならないだろ」


 ヨルはそれは当たり前だと言う嘲笑気味に良いのけた。何故それ程までに表情を変えずに起こったであろう事を出さないとは一体何者なのか。

 またヨルという青年への疑問が現れた。


「そうか……」


 彼もそれ以上追求などしない。裏切り者に対する処罰は行って普通の事ではないか。そう括りを付け彼という謎多き青年の情報を少しでも集めて王国への手土産をあった方が良い。そう思慮を止め情報収集に徹する。


 しかしヨルという青年はどうやってアルベルト・フォン・ベレキンドラスの上に立っているのか。それさえ分かれば良いと思っている彼ではあるが残念ながらそれは不可能であろう。


「一つ良いか」


「ええ、どうぞ」


 脂汗を流しながら肥満体型の上級貴族——シリル・ルイ・ベルトネが訪ねた。はて、一体彼は何を聞くのか。そうアルベルトは思う。富だけ分け与えられ本家より追放されたと言っても過言ではない彼がここで質問をするなど思い当たる節がない。


「本当に〈迷い星〉なんだな」


 それは質問ではなく確かめる行為であった。彼がそんな事を確かめてどうするのか。

 アルベルトは思う。


(出来損ないの考える事は解らないな)


 どんなに考えようともそれが何を意味するか解らないと判断し止めた。


「勿論。さて、ではまず自分の自己紹介をさせてもらいます」


 ヨルは半笑いで答えた。彼は隠そうとはしていない。ヨルは知っているのだ、シリルの心意を。


「自分の事はヨル。そうお呼びください。皆様の事はそちらのアルベルト都市長に教えてもらっていますので皆様方の自己紹介はご遠慮させてもらいます」


 口調を変え自己紹介をした。いや、自己紹介には少な過ぎる。それにもう皆理解しているここに居る者は全て下に見られている、と。何故それ程までにしたに見られているか残念ながら理解するには時間が掛かる。


 今はまだ「謎」の青年という事で警戒レベルを高めるにとどめるしかない。


「ヨル殿の紹介も終えた所で諸君全軍を正門に集め、待機させておけ」


 アルベルトの命令には詳細がなかった。本来であるのなら時間を入れるというにも関わらず彼は何故入れなかったのか。

 勿論彼が無能という訳ではない。では何故か彼らはこう考えが至った。


「我らを試しているのだ」


 この都市にいる全軍と言えば一個師団を作れるかぐらいだろう。

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