初めてのマモノ
あれから、どれぐらい時間が経ったのだろうか。
目を開けると、俺がいた場所は自分の部屋のベッドの上だった。欠伸をしながら、起き上がる。まああの時は父さんが助けてくれた、ということなんだろうがあの日のやつは一体どういうことなのだろう。刀なんて振ったことはなかった。影魔法も使ったことはなかった。
試しにまた刀を影魔法で出し、振ってみる。やはり、違和感がない、なさすぎる。まるで体が自分のものではないような感覚。まあこれはあの超越学習とかいう能力のせいだろう。反動はかなりでかい、と。
ところで、なんか頭が重い、というかなんか乗っかってね!?
俺は頭の上に手をやってみる。するとヒンヤリとしたプニプニしたものが手に触れた。俺はそれを迷わず引っ張って離そうとする、が離れない。
なんかしがみつかれてる感覚がするし! ここで負けるわけにはいかん! 意地でも引っ張り剥がしてやる!
「うおお……剥がれたぞ!」
引っ張り剥がしたものを見てみると、それは水色っぽい透明な液体でできた生物だった。そう、スライムである。拳ぐらいのサイズでヒンヤリとしていて、触っていて心地よい。
これ、ハマりそうだ。
「……ミュゥゥ……」
ん、これスライムの鳴き声か。っつか鳴き声あったのか!?
スライムは少し暖かくなっていた。ほんのり体を赤くして。
なんだ、このカワイイ生物は。
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「……で、こいつはどうしてここにいモグモグ」
「いや、飯食いながら喋んな。ってかついでにスライムも撫でるとか忙しいな、レオ」
当然だ。父さんの話によれば俺は3日間ほど寝ていたらしい。時間は有限なのだ。休んでいる暇などない。
「あと、そのスライムだけど、多分お前がテイムしたんだろ」
そんなことした覚えないんだが。というかテイムをどうやるかを知らん。
「魔物がテイムされるには条件があってな。一つ目は魔物ごとに決まってる条件を満たすこと。二つ目は同じ種類の魔物の中でも知能が高いやつだけにできる条件だ」
「それを俺が満たしたってこと?」
父さんは頷いた。あの人俺に忙しいとか言いながら飯食いながら話してるんだがな。
「その二つ目がなモグモグ……魔物に強く仲間になりたいって思わせることだ。」
ふーん。まあ、俺このスライムにあったの今日初めてなんだけどなあ。
「あ、そうだ。レオ、メニューの出し方知ってるよな? 出してみろ」
「なんで?」
「まあ出してみろよ」
父さんの意図はわからなかったが、とりあえず出してみるか。
「オープン」
前にも見たメニューの画面が出現する。
「まずはスキルツリーを見てみろ」
これは……文字がLevel2になってる!?
「その顔は、やっぱりか。あんな事もあったんだしそろそろ上がるか……聞いてるか?」
悪い、父さん。聞いてない。俺はスキルツリーに見入っていた。〈魔剣士(影)〉はLevelが2になった。あと、〈投擲Level1〉が新しく追加された。
スキル名:投擲Level1
説明:物を投げる威力と、正確さが上がる
今までは、刀剣による近距離攻撃しかできなかったので、戦法の幅を広げられそうだ。
そして、最後の問題である〈学びの加護〉はというと。
スキル名:学びの加護
説明:学びが強化される。
学びの強化は三種類の効果がある。
・知識の記憶力、収集能力を向上させる。
・テイムした魔物の学びと自分の学びは共有される
・一時的に世界の知識にアクセスし、スキルを学習する。学習したスキルは性能が向上する。
効果が詳しくわかるようになっていた。恐らく俺がこの前使ったのは三つ目のやつだろう。世界の知識って何なのだろうか。
「スキルツリーを見終わったら、テイムってとこを見てみろよ」
そう、それは俺も気になっていた項目だ。だが、前に見たときはスキルツリー以外の項目の文字はうまく読めなかったのだ。Level2になったから解放された、ということか。
テイムという項目を押すと、画面には緑色の光と多量の文字が写っていた。
名前:エルダースライム
賢者の才
説明:学習力、及び賢さを強化する。一度覚えたことを忘れなくなる。
魔の適正
説明:覚えれば、全ての属性の魔法を使えるようになる。魔法の威力、精度全ての性能を強化する。
「緑色の光が自分がテイムした魔物だ。ってなんだその顔?」
このスライムの能力を見てから俺は黙っていた。
スライム……スキルの性能滅茶苦茶すぎるだろ!
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俺は部屋に戻ってから机に置いておいた本を読んでいた。最近は書庫からいくつか本を持ってきて勉強するのが日課だった。前に途中まで読んでいた本があったのだが、あれからそのままにしてあったようだ。
「……ミュ?……」
「興味あるか? スイ」
俺がスイと呼んだスライムは、本を持つ右手に乗っかっていた。水色だったからスイと名付けた。安易とかいうな。ちょうどいいだろ。
それにしても、本に興味を持つとは。随分頭のいいスライムだ。まあスキル見たら分かるが……待てよ。そんぐらい賢いなら……
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「すげえよ。本当すごいな、スイ。」
俺はそう言って撫でてやった。スイは体を変形させて触手のようにしている。それにはペンが握られている。そして、それが向けられた紙には。
(私はスイ)
とこの世界の言語で書かれている。今俺がやったのは簡単だ。スイに文字をひたすらに教え続けた。ジェスチャーなども使って死ぬ気で教えた。その教育の結果がこれだ。いや、成長が早すぎて教えがいがある。この先もいろいろと教えればもっと賢くなっていくのではないだろうか。先が楽しみだ。