化け物
「ハアッ」
「まだまだだな」
父さんが振った木剣を同じ木剣で受けた俺は、吹っ飛ばされた。
スキルを確認した時から、俺は父さんに剣術を教わっている。普通に剣に慣れるため、というのもあるがレベル上げにもなるかもしれない、と思ったからだ。それにしても。
「振ったこともなかったのに一ヶ月程度で割と振れるようになるって。スキルの影響かな。」
「驚いたか? 普通に才能もあると思うぞ。ま、お前は俺……の息子だしな。」
実際驚いている。慣れてくると振るのが楽しくなるから不思議だ。
「スキルツリーのスキルは個人の好みとかと合っていることが多いからな。もっとやればさらに慣れるだろ。」
「うん。もうちょっと頼むよ、父さん」
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俺は部屋の自分の机に座り、本を開く。稽古をしてから、自室へ戻り本を読むのは最近の日課だ。大体の場合は物語などを読んでいるのだが、今日は少しいつもとは違う。
今日読むのは『影魔法大全』という本だ。家に影魔法の本がなく、俺がねだったところ父さんが買ってきてくれたのだ。最初、父さんも影魔法を使えるようだったので、父さんに魔法を教えてもらおうと思っていたのだが、魔法というのは人によってだいぶ違うのでたくさんの知識があった方が良いそうだ。
というか父さんってかなり強いんじゃないか?
ーーヤッホー。どうも神です。
いらない奴が来やがった。
ーーえー。そんなこと言っていいの? スキルの事知りたくない? 学びの加護知りたくない?
すいません、知りたいです。ってなんかこの流れ見たことあるな。
ーーよろしいよろしい。じゃあ指定する場所へ来てね。
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という事で俺はそこに向かっている。神が指定した場所はある森にある。そこは一応前に行ったことがある。剣の稽古がてら魔物相手の戦闘を練習していたのだ。ここはフォレストウルフという狼の姿をした赤い目の魔物の群生地である。返り討ちには出来る強さだ。
「って噂をすればか。」
目の前にはフォレストウルフの群れがいた。こいつらは個々は大して強くはなかった。だが、数が多い。この群れは二十匹はいそうだ。俺は背中に背負っている剣を手に持った。父さんがあんま切れ味良くないから、と言ってくれたものだ。だが。
「ま、普通によく切れるよな」
地面を蹴って一匹目の首を落とした。狼達は仲間がやられたのを見ると、一斉に飛びかかってくる。
俺は普段利き手である左手だけで剣を振る。
「それはこういう事をするためだ……よっ!」
俺は襲いかかって来た狼を一匹剣を持っていない左手で掴み、他の狼に噛ませ、まとめて切り裂く。このような利き手と逆の手で体術などを使うのは、父さんから教わったものである。本人も使っているらしいが、俺にもかなり合っているから不思議だ。
俺はそうして狼を切っていった。
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そんな事を繰り返しながら森へとついたのだが。
「静かすぎる……」
ここは、フォレストウルフの群生地だ。しかしさっきからここから逃げるように狼は動いていた。しかも前来た時はよく狼の遠吠えが聞こえた。しかしそんなものは全く聞こえない
ここまで来てはみたのだが、さすがに不気味だ。
しかし、スキルのことは知りたいしな……次、神が連絡してくるのがいつとも限らない。
どうしたものか。
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「何も起きないな」
スキルの誘惑に負けた俺は、神に指定された森の奥の日当たりのいい広場に来たわけだが。かれこれ30分ほど待っても何もないのだ。
「帰ろうかな……」
俺は黒い影に染まった地面に座り込んだ。
待て。ここは日当たりのいい広場のはずだ。なぜ、影がある?
「まずい!」
俺はとっさにこの場から飛び退く。すぐに俺のいた場所に大きな岩が落ちてきた。いや、違う。あれは本で読んだことがあるものだ。その題名は『魔物図鑑』。
「硬き岩の巨人……」
魔物の強さはランクで表されている。ランクとはアルファベットで表され、FからSまでの7個だ。フォレストウルフ、つまり俺が容易に勝てるレベルがF。
「GUOOOOOOOOOOOO!」
Dランク、人によってはCランクと評されるという岩の化け物が雄叫びをあげた。