8限 残酷な真実
今までのあらすじ
加奈はやはり母さんのことをあまりよく思ってない様子だった。
壁打ちのコートにボールの音が響いていた。圭介はボールを打ちながら明日のことを考える。
明日はバイトが休みで母の再婚話をしなければならない。やはりここ数日、加奈は母を少し遠ざけているようだった。母はそれに気づいているため話しかけていない。こんな状態で話して良いのかまた考える。
「今日も来てたんだ」
池波さんが制服姿でテニスバッグを背負ってコートに入ってきた。
「楽しいからね」
ラケットの面の上でボールをはずませる。池波さんが負けじとラケットを取り出し裏表と交互にはずませる。僕も負けじと裏表交互にはずませるが安定してなくて今にも落としそうになり、あちこち動き回る。気づけば元の位置からかなり離れてしまった。そんな圭介の姿がおかしかったのか池波さんがボールをはずませながら笑う。そのまま勝ち誇ったような表情を見せた池波さんはラケットとかばんをベンチに置き制服を脱ぎ出した。
「上手くなった?」
語尾が服を脱いでいたため少し艶っぽくなる。僕は心を落ち着かせ、まだかな、と答え、壁打ちを再開させる。その間、体育着になった池波さんは準備運動をしていた。
「皆里 睦美ちゃん?」
壁打ちがひと段落つき休憩していた時に母さんに頼まれたテニスの練習相手の皆里 睦美について尋ねる。
「この間負けたことをまだ気にしてるの?」
「負けた?」
「この間、戦っていた小学生選手だよ」
池波さんの言葉で絶望した。以前ボロ負けした生意気小学生と母さんに頼まれたテニスの練習相手が皆里 睦美で同一人物だということに今更ながら気づいた。それにショックを受けていると、ふとあることが気になった。
「もしかしてあの試合見てた?」
池波さんが申し訳ない表情をしたため間違いなく見ていたのだろう。そう思ったら無性に恥ずかしくなり、テニスラケットを持ち壁打ちをがむしゃらにやった。そのため無駄に力が入ってしまい数回でミスをしてしまった。