37限 加奈と池波さんの作戦会議
今までのあらすじ
銭湯に来た加奈と池波さんと圭介。
圭介が温泉で体を休め、今後、大会に出ることを決意した。
加奈と池波さんは圭介と別れてお風呂に入る。
加奈は池波さんの細身な身体をチラ見し、自分の小さな身体と比べる。
「どうしたの?」
その視線に気づいた池波さんが身体を洗いながら尋ねる。加奈が一番気にしている胸に目を向ける。
「胸、気にしてるんだ」
「……おおきくなるかな?」
加奈は心配しすぎる弱々しい声だった。
「大丈夫だよ」
池波さんが小ぶりな胸を反らして答える。
「池波さんは気にしてないのですか?」
「テニスやるときは邪魔にならないよ」
池波さんはよく分からないフォローで励まし、浴槽に浸かる。
「温泉気持ちいいよ、加奈ちゃん、おいで」
加奈は誘われ、体を流してゆっくり浴槽に入る。
「本当に気持ちいいですねー」
浴槽内の段に座り温まる。浴槽の奥は背が低くて座ることができないのだ。その横に池波さんが近づき座る。
「加奈ちゃんもテニスやってるんだよね」
「はい、お兄ちゃんに比べたらまだまだですけど」
「武本くん、強いよね、いつからやってたの?」
池波さんは段から下りて床に座り肩まで浸かる。
「小学生のときからずっとやってるんですよ」
生き生きとした様子で自慢するように話す。
「左手使えなくなった時なんて右手でテニスを続けてたんですよ」
「そうだよね、凄いよね」
池波さんは加奈の姿にたじろぐ。
「はい、お兄ちゃんは凄いですよ」
武本くんのことを熱く語る妹の加奈の姿を見て加奈の好意の気持ちの根源が気になった。妹だからってここまで兄に好意を持つものなのか、疑問に感じた。
「お兄ちゃんのこと好きなんだね」
「両親いない時期があって私のために頑張ってくれたので」
「え、両親いない時あったの!」
踏み込んで良くなかったと言葉にした後に気づいたが遅かった。
「はい、今はお母さんも帰ってきて新しいお父さんもいるので大丈夫ですよ」
明るく言う加奈ちゃんがその時、池波さんには大人に見えた。
「それより、池波さんってお兄ちゃんのこと好きですよね」
いきなり踏み込んでる加奈ちゃんに驚き、水が跳ねる。
「やっぱりそうなんですね」
水で顔を半分ほど隠すがバレバレだった。
「大丈夫ですよ、私応援しますよ」
「ほんと」
その言葉を聞いた池波さんは水から顔を出し、嬉しそうな表情を見せる。
「お兄ちゃんも恋が必要なので」
加奈は子どもの表情でにっこり笑い、作戦を話し始めた。数分で作戦会議は終わり風呂から上がった。