34限 池波さんとの帰り道
今までのあらすじ
池波さんとのテニススクールが終わり帰宅しようとしていた。
テニススクールを出た池波さんと圭介は壁打ちに向かう。
「いつも壁打ち来てるみたいだけど家はあの辺なの?」
「大体自転車で20分くらいだよ」
池波さんと横に並ぶ。道はかなり広くそれでもスペースはまだあった。実際、何度か自転車が追い越す。
「わたしもそれくらいだよ、中学どこ?」
自転車に乗りながらだったため距離があり、声が多少大きめになる。
「南中だよ」
「え、近い! 私は第三南中だよ」
池波さんのいう通り近く、南中と第三南中の距離はおおよそ自転車で20分の距離にあった。
「僕の家、浜銭湯の近くなんだよ」
「え、私も近いよ、歩きで10分で行けちゃうよ」
その言葉を聞き圭介は前に向いていた視線を池波さんに向ける。
「僕も同じくらい」
「もしかして、意外と家、近所?」
「そうかも」
不思議な偶然に胸が熱くなり、何故か笑い出す圭介。それは池波さんも同じだったのか一緒に笑い出す。そこに圭介の住むマンションが姿を見せる。まだ距離があり建物と建物の間で見づらかったが圭介がそれを伝えると池波さんがそのマンションを見つける。
「ほんとに、近いね、私の家はあの辺だよ、見えないけど」
そう言い指した場所マンションと近く、自転車で15分あれば行けそうな距離だった。しかし今回はそこまで行かずに高架下の壁打ちコートで止まる。
「じゃあ、始めよっか」
その言葉で壁打ち練習を交代で行う。
「スマッシュってわかる?」
何回か繰り返したところで池波さんが圭介に質問する。
「スマッシュを壁の手前に打ち込むと弾んだボールが壁に当たり、ロブが上がるからそれをスマッシュする、というのを繰り返すんだよ、見てて」
と言い圭介はサーブを壁の手前に打つ。すると狙い通りロブが上がったのでスマッシュを壁の手前に打つ。それをしばらく繰り返す。まだコントロールができないために左右にボールが返ってくる。
「うまいね」
池波さんがそれをみて称賛の声を漏らす。 それが照れ臭く感じ、またその言葉で調子に乗り強めに打ったためミスをする。
「どうしても壁に打とうとしちゃうんだよね」
そう言った池波さんだが壁に手前に打つことができていた。しかし池波さんもコントロールには苦戦している様子だった。
「あー、疲れた、お腹空いたね」
壁打ちを何回か繰り返した池波さんはベンチに寄りかかる。
「お昼、どこか食べに行く?」
「え、う、うん」
急に大人しくなる池波さん。嫌なのだと思い確認する。
「あ、嫌だよね」
「いや、そうじゃないよ、駅前のファミレスはどうかな」
そう言い池波さんが挙げた店名は今、圭介が働いているお店だった。
「そこは……今、働いているところだから」
「あ、バイトしてるんだ」
重い空気が場に流れる。それをどうにかしようとして自分でも考えなかったことが声として漏れる。
「僕の家なら」
「え……」
「あ、ごめん、なんでもない」
「えーと、行ってみたいかな」
小さな声で池波さんが答える。
「もしかしたら妹達がいるかもしれないけどいい?」
「大丈夫」
流れでとんでもないことになってしまったが支度して圭介の家に向かうことになった。時刻は13時前と丁度、加奈が帰宅する時間だった。
それは仕方ないことだった。加奈が部活から帰宅した時に昼食を出せるようにテニススクールと壁打ちの時間を調整していたからだ。流石にここまできて断れないため圭介の家に向かって自転車を漕いだ。