33限 きついレッスン
今までのあらすじ
智と睦美との距離が縮まりつつあった。
父さんと睦美が来た次の日。
「じゃあ、テニス行ってくるね」
家に睦美を残し出かける準備をする。母さんと父さんは一緒に仕事に向かった。さすがにすぐに母さんは仕事を辞めることはできなかった。
「圭介も部活やってんだ」
睦美がテレビから圭介に向ける。加奈は朝早くから部活に行っている。夏休みだというのに週6で朝8時から13時のハードスケジュールだ。
「いや、部活じゃなくてテニススクールだよ」
「へー、なんで部活入らなかったの?」
「いつか話すよ、行ってきまーす」
テニススクールの時間が迫っていたため家を出る。しかし本当はそれを回答することから逃げていたのかもしれない。
今日は嬉しいことに池波さんとレッスンが同じだった。しかし曜日が違うためコーチは30代くらいの女性の方だった。当然、生徒も違う。40代の男性の方、30代くらいの女性の方だった。
「じゃあ、最初はショートラリーからやるよ」
そう言いコーチが適当にペアをつくる。偶然なのか池波さんとペアになり圭介はテンションが高まった。
「よろしくね」
笑顔を見せる池波さん。
「よろしく」
自然に圭介も返す。そしてボールを何球か手に取りコートを挟み、少し距離をとる。
「じゃあ、いくね」
池波さんが軽く打つ。圭介もボールとの距離感、打つタイミング、回転等を意識し返球する。また、短い距離だがしっかりと最後まで振り切る。池波さんと向き合っていたため綺麗なフォームが目の前で見ることが出来た。またスウィングスピードを緩めているため尚更よく見ることが出来た。
「ボレーボレーに入って」
その言葉でショートラリーをやめずにそのまま前に詰める。その際多少ストロークのボールを上目に返しボレーしやすくする。フォア、バックと交互に返球する。
「あ、ごめん」
圭介の返球したボールの軌道がずれる。池波さんが瞬時にそれに反応しラケット面を調整する。
「ナイスキャッチ!」
再び、ブレずにラリーが再開する。
「じゃあ、そこまで休憩して」
その言葉を聞いても圭介達はやめない。むしろヒートアップする。左右交互だったのをランダムで返球し、相手のミスを誘う。勿論、返球不可能な場所には返さない。あくまでも返せる範囲で速く、いやらしいところに打ち返す。お互い視線を合わせて負けない、ということを伝える。何球かボールが行き来したところで圭介のフレームにボールが当たる。鈍い音がしてボールが真上に打ち上がりそのままアウトする。
「あー、負けたぁ」
コートの漂う緊張感がその言葉とともに無くなる。池波さんはガッツポーズをとり喜びを表す。
「じゃあ、ベースライン1列、並んで」
それを聞きベースラインに並ぶ。次はストロークの練習だ。コーチが相手コーチからラケットを使いボールを出しをする。右側に並んでいるがコーチは左側に打つため走って打つ必要があった。また、コーチはどんどんボールを出すためすぐに交代し打たなければならなかった。
「フォーム崩れてるよ」
コーチが大きな声で圭介に指摘する。多少疲れながら圭介はフォームに気をつけ次のボールを打つ。このときも池波さんのフォームは綺麗だった。
「ラスト一周!」
コーチがあえてラインギリギリにボールを出してくる。圭介はなんとかそれを返球する。
「じゃあ、次は左側に並んで」
今度は左側から右側のボールを返球する練習を籠のボールがなくなるまでする。そしてボールがなくなったらボール集めをする。
「クタクタだね」
コーチが笑いながら話しかける。
「疲れてないですよ」
圭介も笑いながら返すが息は切れていた。
「じゃあ、もっときつくするか」
「だ、大丈夫です」
圭介が強がる姿をみて、またコーチが笑った。
そしてボール拾いが終わったところで休憩に入る。 そんな感じでその後もロングラリー練習、ボレー練習、試合と続いた。
「じゃあ、今日はここまで」
「ありがとうございました」
圭介はクタクタになりながらコートから出た。
「この後、壁打ちいく?」
息一つ切らしてない池波さんが訊いてくる。
「もちろん、いくよ」
疲れていたが毎日続けている壁打ちはやめたくなかった。
「じゃあ、一緒に行こう、自転車だよね」
「う、うん」
まさかの誘いに混乱しつつ圭介は賛成する。
「ありがとうございました」
そう言いながら同時にテニススクールを出て自転車置場に向かう。