32限 父
今までのあらすじ
智さんと睦美が家にやってきた。
購入リストを持って、5人は家を出る。
「カギ閉めてないよ」
睦美がそう指摘するがその必要がなかった。ドアはオートロックで勝手に閉まるからだ。それを聞いた睦美は感心した。
「カギも渡さないとね」
そう言い近くの大型スーパーに車で向かう。運転免許は母さんも智さんも持っていたが道を知っている母さんが運転する。数十分で着いたスーパーは複合施設となっていてスーパー以外にも靴屋、書店、ゲームセンターなどがある。
「それじゃあ、まずはお皿から見ていく?」
コップや箸などを先に見ることにする。店内にはいろんな大きさや形、色などの食器類が並んでいた。
「いっぱいあるー!」
睦美が駆け足で店内に入る。気をつけなよ、と智さんが注意するが耳に入ってないのか、店内の皿を手に取り、これ可愛いと店内を巡る。
「パパ、私、これがいい!」
指を指したコップはプラスチック製の可愛いイルカのイラストの描かれているものだった。
「ねえ、お兄ちゃん、私も新しいコップ買っていい?」
店内を巡っている途中に加奈も気に入ったコップがあり、母さんではなく圭介におねだりする。家の財布は今は母さんが持っていたが、加奈はまだ圭介との二人暮らしの時と同じように振舞っていた。
「仕方ないな、どれがいい?」
圭介がそれを買おうとしていることに母さんは何も言わなかった。しかし智さんは違った。
「じゃあ、お父さんが買ってあげようか」
「え、いいんですか?」
加奈もまだ智さんに遠慮がちだった。
「いいよ、それくらい、他に欲しいものある?」
「大丈夫です、ありがとうございます」
そう言い加奈はコップを渡して離れる。それ以降、加奈はおねだりしなくなった。
「これで大体、揃ったかな」
全員が分担して買い物袋を手に車に戻る。そして家に戻ったら買ってきたコップやタオルなどを仕舞う。それが一段落ついたところで家のベルが鳴る。圭介がすぐに出る。時刻は18時過ぎと圭介が事前に頼んでいた商品がしっかり届き安心する。 その商品がリビングに入った瞬間、美味しそうな匂いがリビングに広がる。
「ピザだ!」
加奈と睦美が声を揃えて喜ぶ。その姿が見ることができて圭介も嬉しく感じた。
「圭介、いつの間に頼んだの」
母さんが袋からピザを取り出しながら驚きの声を上げる。
「今日は記念日だと思うからこっそり買っといたんだ」
「ほんと、よくできた子だな」
智さんが感心の声を漏らす。
「一段落ついたから冷めないうちに食べよ」
智さんと母さんがそれを聞き席に着く。加奈と睦美はそれを聞く前から席に着いていた。
「じゃあ、母さんと父さんの結婚とみんな一緒に暮らすことに乾杯!」
さすがに圭介はこのとき「父さん」という言葉を使った。少しこそばゆい感じがしたが智さんの目が少し潤んでいるのを見て呼んで良かったと思った。