29限 ラリー
今までのあらすじ
テニススクールの体験レッスンをうけている武本 圭介。次の練習内容は池波さんとのラリーとなった。
圭介は籠からボールをいくつか取り出しポケットに仕舞う。お願いします、と言い、ラケットを上げて左右に振り合図を送る。
「お願いします」
山なりのボールを池波さんの足元に落とす。軽く跳ねたボールを池波さんは落ち着いてストレートに返球する。それをバックハンドで圭介は返球する。池波はフォアで強く、またバックサイドに返球してくる。圭介はスピンで池波さんを崩そうとするが難なく返球される。その後もラリーは続き時間切れとなった。
「じゃあ、交代して!」
今度はコーチとのラリーだ。コーチは籠からボールを何球か取り出し軽く打つ。圭介はそれを思っ切り打ち込む。コーチが浅いスライスで返球していきたので少し前に出て返球しネットに詰める。コーチが意地悪なのかロブを打ってきたためラケットが届かずボールは圭介の上を越えてライン付近で弾む。
「下がって」
コーチが手で合図しながら指示したのでベースラインまで下がり構える。コーチがまた軽く打ってきたが圭介は流れるように返球する。ボールは自然と回転がかかり弾む。
「その打球もう一回!」
圭介はまた同じように力を抜いて流れるようにラケットを振る。ボールがガットに触れて擦れる音を立てる。コーチが先ほどに比べて少しスピードを上げたショットをバックサイドに返球する。圭介もそれをコーチのバックサイドに打つ。さらにコーチはスピードを上げてバックサイドに返球した。圭介は返球したもののネットに引っかけてしまった。
「ちょっときて」
コーチに手招きされネットに前でコーチと向き合う。
「一回目のショットは力み過ぎていたがその後のショットは良かったよ、ただ早い打球に慣れてないようだから池波とラリーをこなすと良いよ」
少し悪巧みをする子どものような表情でコーチがアドバイスしてきた。その意図が読み取れず圭介は頷くことしかできなかった。
「次の交代して」
その指示を聞き圭介は休憩だったためベンチに座った。今度はコーチと池波さんとのラリーだ。池波さんとコーチとのラリーは早い打球が次から次へと行き交った。きちんと半面コートなのにも関わらず左右に打ち分けるコーチもさることながらそれを返球する池波さんもすごかった。それをずっと見たかったが時間は存在する。あっという間に交代になってしまった。そして次の方とのラリーも終わり、ボールを拾って全体で休憩となった。
「時間もそろそろだから最後にチャンピオンゲームするか」
コーチの言葉に心のなかでガッツポーズを圭介はした。池波さんとの試合はもちろんのこと他の人との試合も楽しみだったのだ。
「4点先取のデュースなしで、コーチもいれての7人で」
おそらく奇数にしたのはチャレンジャーのペアを変えるためだろう。最初に入ったのは池波さんと50代の女性ペアともう一人の50代の女性と圭介ペア。また30代の男性とコーチはその試合を見ることになった。
「すみません、先に後衛してもいいですか」
池波さんが後衛にいたためラリーをするためには圭介も後衛にいなければならなかった、
「いいですよ」
ニコニコとした表情で女性は賛成してくれた。
ゲームは公平を期すためにコーチの球出しから始まった。それを池波さんはクロス側、圭介に返球する。圭介もクロスに返球し、前衛の二人はチャンスをうかがっていた。何回か続いたところで池波さんがセンターにボールを打つ。前衛が咄嗟なことで反応が遅れボールが抜かされる。圭介がそれを何とかロブで返球したもののチャンスボールになってしまった。そのボールが弾むまでの間、池波さんは決める準備をし、圭介はどこに来てもいいように構える。そしてボールが弾み池波さんが空いていた右側、前衛がいるラインギリギリに攻める。まさかのことで反応できずに池波さんペアのポイントとなる。そして次も池波さんと圭介のラリーが続く。しかし途中で池波のコースが甘くなりペアの女性がポイントを取る。今度は圭介の方から試合が始まった。いきなり圭介はセンターに強烈なショットを打ち込みポイントをとる。
「武本、相手は女性だぞ」
コーチが笑いながら圭介を注意する。圭介は次の球は池波さんのいるクロス側に返球しラリーが始まる。しかし池波さんが途中でミスをして勝ちとなった。それで圭介はチャンピオンとなったが次の男性とコーチのペアに敗れた。敗因はおそらく圭介が容赦ないコーチに狙われたからだろう。
「じゃあ、今日はここまででボール集めて」
何試合かした後コーチがそう言いボールを集める。それが終わると解散となった。圭介は終わった後、コーチから説明を受けるためカウンター前のテーブルに座った。コーチが書類等を準備している間池波さんに話しかけられた。
「武本君、お疲れ様、今日は壁打ち来る?」
「お疲れ様、説明終わったら行くよ」
「ここで続けるの?」
少し不安そうな表情で尋ねる池波さん。しかし圭介が続けることを伝えると表情が明るく変わった。
「じゃあ、また後で」
そう言い池波さんは帰宅した。それを見計らってなのか池波さんがいなくなったところでコーチが書類を持って来た。
「じゃあ、説明するね」
そう言いコーチは説明を始めた。説明によるとどうやら今、レッスン受け放題期間らしく3ヶ月間、レッスンの空きがあったら入ることができるらしい。夏休みということで圭介にとってとてもいいキャンペーンだった。そのこともあり迷わず圭介は契約書にサインをして早速明日レッスンを申し込み帰宅した。
[加奈と圭介のテニス講義]
圭介 「今回はチャンピオンゲームについて教える
ね!」
加奈 「はーい!」
圭介 「チャンピオンゲームとは指導者でやり方が
異なることがあるんだけどチャレンジャ
ー側とチャンピオン側に別れて勝ったらチ
ャンピオン側、負けたらチャレンジャー側
に移る練習だよ。だからチャンピオン側に
いることが多いほど強いってわけだよ」
加奈 「奇数にしたのはなんで?」
圭介 「それはチャレンジャーのペアを同じにしな
いでいろんな人と組むためだよ。
チャレンジャー側は一列に並び、先頭の2
人がペアとなりコートに入るんだ」
加奈 「なるほどね、ありがとね、お兄ちゃん!」
圭介 「よし、この調子で次回も頑張ろうね!」