20限 右利き
今までのあらすじ
突然、父さんが現れ、母と離婚した
「よし、もう大丈夫だね」
医師が問診室でそう言いにっこり笑った。
「運動してもいいですか?」
ここ数ヶ月、圭介はテニスができなくてウズウズしていた。
医師は顔をしかめて考える。
「まあ、あまり医者としては、やってほしくないけど軽くならいいよ」
それを聞き、ガッツポーズをした。しかしその気分を壊す発言を医師にいわれた。
「受験勉強は順調なのか?」
「……」
「圭介、今週、受験でしょ」
母さんも圭介に現実を教える。第一志望は公立高校と決めていたが私立校も保険で1つ受験することにしていた。その事実に圭介は何も反論できなかった。代わりに医師に礼を言い病院を後にした。そしてそのまま唐崎と斉木にメールを送った。返信はすぐに来た。
「テスト明けの日曜日ならいいよ!」
「日曜日にやろう」
そういうことで圭介、唐崎、斉木は日曜日にテニスをすることにした。
日曜日。
「圭介、準備運動はしっかりやれよ」
「分かってるよー」
テニスコートで圭介、唐崎、斉木が準備運動をしていた。
「テストどうだった、難しかった?」
「まあまあかな」
唐崎が伸びをしながら答える。
私立校はそれぞれの学校を選んでいた。そのため誰か一人公立に落ちたら別の高校に進学することになる。
「じゃあ、はじめるか」
準備運動が終わり、コート内に入り構える。圭介を思ってなのか圭介のとなりに唐崎が構え、斉木が一人で構えていた。このとき、圭介は不思議な感覚だった。馴染みのラケットだがしっくりこない。構えの姿勢もピンとこない。何より緊張を感じていた。
「ほいっ」
斉木が軽く圭介に向かって打つ。そのボールは山を描いて圭介の足元で弾む。そのボールを打とうとした瞬間、手が震えて頭が真っ白になり打ち方が分からなくなる。きたボールを何もせずにいると唐崎が心配してそばに寄る。
「圭介、大丈夫か?」
「あ、あぁ、たぶん」
もう一度構える。同じような山なりのボールが圭介の足元で弾む。それを打とうと考えた瞬間、また手が震え、頭が真っ白になる。
「ごめん、ちょっと休むね」
圭介自身も分からない状態になり混乱する。しばらく唐崎と斉木のラリーをぼんやり眺めていた。
「圭介、大丈夫か」
唐崎と斉木がひと段落つき圭介を心配する。
「左手が震えて打てなくなっちゃって」
「なら右手で打てば」
唐崎が馬鹿げたことをいう。たしかに左手が使えないなら右手を使えばいい。あながち間違ってないように感じた。試しに右手で軽く素振りを試してみる。テニスを始めた頃はみんなに合わせて右手を使っていた時期があったことやバックハンドを両手打ちしていたこともありなんかできそうな気がする。
「ちょっとやってみるか」
圭介は軽くボールを打ちラリーが始まる。斉木がそれを唐崎に打ち、それを斉木に打つ。そして圭介に返す。圭介はぎこちなかったが返球出来ていた。手の震えや頭が真っ白になることがなかった。ラリーを繰り返すと徐々に慣れてきてまともなストロークが打てるようになっていた。
「圭介、すげえな」
唐崎が驚く。しかし圭介はそれに素直に喜べなかった。