17限 見えなくなる夢
今までのあらすじ
試合が終わり南中の関東大会出場が決まった。
しかし武本 圭介はしばらくテニスができないことを
告げられた。
足首の靭帯を損傷したためギブスをはめ松葉杖での生活を送ることになった圭介。母さんが迎えに来て家に帰宅すると加奈と心配してくれた。しかし父さんは電話一本も寄越さなかった。
「お父さん、電話出た?」
加奈の質問に対して母さんは顔を横に振った。
明らかにうんざりしている様子だった。父さんはいつもそうだった、家族を放っておいていつもどこかに出掛けている。
「仕方ないよね、お仕事だよね」
加奈は笑っていたが心のどこかでは諦めていたのかもしれない。
「圭介、ちょっと話があるんだけど」
母さんに呼ばれて部屋に行き、話し合う。
「圭介、辛いと思うけどテニスはしばらくお休みをして勉強に専念したほうがいいんじゃない」
母さんの言葉はそのとおりだった。たしかに今、高校3年生の7月で勉強しなければ追いつかない時期でもあった。しかし圭介は頷くことを躊躇った。
「とりあえず怪我が治らないとどうにもならないよね」
「う、うん」
「じゃあ、とりあえず怪我を治しちゃおうね」
そこで話は終わり、松葉杖をつき自室のベッドに横になる。壁に掛かっているテニスラケットが視野に入る。
「どうなるのかな」
ぽつりとつぶやいた。とりあえず怪我して運動できない状態だったので勉強に取り掛かる。諦めてはいなかったがこの時、中学では受験についての授業が何度も行われていて正直、圭介は焦りを感じていた。
そこにメールがきたことをスマホが伝える。それを確認して返信の文面に詰まる。
「怪我、大丈夫? 関東大会絶対出ような 唐崎」
そっか、関東大会か、いいな。そのメールでどこか夢のようで実感が沸いてなかった圭介はようやく覚めた。すると涙が溢れてきた。その涙は考えれば考えるほど溢れてくる。しかし夢から覚めた圭介には一気に現実が襲いかかっていた。その後、斉木や他の人からのメールが来ていたが見る気がおこらなかった。
翌日、圭介は松葉杖をつき、学校に向かう。教室に入ると一気に視線を集めた。
「どうしたの?」 「大丈夫?」
と声をかけてくれたクラスメートはいたが唐崎と斉木は声をかけてくれなかった。何を言えば良いのか分からなかったんだろう。圭介自身も話しかけるか悩んだ。
「おはよ」
「おはよう」
圭介が話しかけると唐崎は返事はしてくれた。しかしその後何も言わない。
「あのさ、関東大会のことだけど、ごめんな」
「やっぱりダメなのか」
圭介は頷いた。
「大丈夫、俺たちがどうにかするよ」
斉木が励ますためなのか話に入ってくる。
「今、言ったな、絶対勝てよ」
「任せてくれ」
斉木と唐崎はそう言ったが1カ月後の関東大会で惜しくも南中は1回戦で敗退してしまった。圭介もその時松葉杖をついて応援に行っていた。悔しさで泣く唐崎と斉木。
「ごめんな」
そして圭介に対して謝罪する。
「相手が強かったんだよ、高校でも頑張ろうな」
そう慰めたが斉木と唐崎は、申し訳なさそうにしていた。それを圭介はつらく感じていた。自分が怪我さえしてなければこうならなかったのかもしれないと思って胸が痛い。圭介はそれ以来、回復のためリハビリを始めた。