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文学

報いを受けた老人

作者: 千路文也

 エリート探偵の山下は一人の男を追っていた。そいつは何人もの罪無き若者を自分の店に雇ってこき使い、馬車馬のように働かせて使い物にならなくなったら殺して自分の庭に埋めた猟奇的殺人者だ。彼は通称、ガキケンと呼ばれる人物で警察関係者すら手を出せない場所に隠れているそうだ。そこで正義感の強い山下はいてもたってもいられずに独自に調査を開始した。まず最初に殺人者の特徴を調べたのだ。ガキケンは鋭い目つきが特徴の男だ。眼鏡をしていても奴の鋭い眼光は標的を射抜くように冷たい色をしている。おまけに身長体重共に大柄でガッシリとした体形で、見た目は完全にモンスターそのものだ。実際に彼の元で働いて運よく生き抜いたバイトの子供は、ガキケンのことを蔭でお化けだと罵っていたらしい。典型的なサイコパスの性格で間違いない。そもそも、自分の店で雇っていた若者を殺して家の庭に生まれるなど普通の人間には到底不可能な芸当だ。殺された者のほとんどは両手手足をズタズタに引き裂かれて首から下の胴体はミンチに等しい。余程の恨みがあったのかどうかは知らないが、人間業とは思えない。彼の元で働いていた青年達同様に、ガキケンのことを人間扱いするのはやめておいた方が良さそうだ。どちらにしろガキケンには償いをしてもらう必要がある。正義感に燃える探偵は身を粉にして調査を行った。周辺地域の聞き込みは勿論、どんな情報にも耳を傾けて敏感に奴の追跡を辿る。そして調査を開始してから一週間近くが経過して、ようやく奴の居場所を掴んだ。誰も住んでいない廃墟のボーリング場だ。そこに地下室を設けて細々と暮らしていると奴の仲間が情報を漏らしたのだが信用は出来ない。用心のために護身用のスタンガンを用意して捨てられたボーリング場に向かった。その場所には確かに不自然な床下扉が備え付けられていて、扉を開けると階段が地下室へと続いていた。探偵は一歩づつ慎重に進んで行くと、拍子抜けするほど簡単に部屋を見つけた。部屋の窓から恐る恐る内部の様子を確かめた瞬間だった。椅子に座って首をおかしな方向に向けて天井を見つめる男の姿を確認した。その男はまさしく、ガキケンだ。手元には大量の注射が捨てられていて、どうやら薬物を過剰摂取してしまったようだ。襲ってくる気配も無いので部屋の扉を開けて哀れな薬物中毒と化した廃人を上から見下ろす。


「ガキケン……この言葉が聞こえてるかどうか知らないが、お前を警察に引き渡す」


 そう口にした時だ。後頭部に強烈な痛みを覚えて視界が真っ暗になった。その間はしばらく気絶して目が覚めると全てが手遅れになっていた。肉がミンチになる音が聞こえて、錘に等しく重たい瞼を開くと、目の前に広がっている光景はあまりにも悍ましかった。そこにはガキケンの元で働いていた若者がバットを持って地面に転がっている肉を無我夢中で叩きのめしていた。


「よくも……よくも先輩達を殺しやがったな! 報いを受けろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 哀れ……なんと哀れなのか。殺人者を憎むあまり、自分自身が殺人者となってしまったのか。若者よ。君の下に転がっているのは原型を止めていないただの脳味噌に過ぎないといのに。そこまでの恨みがあるとは汝、地獄行きは決定ぞ。


「なんということだ。探偵の私が尾行されていたとは」


 こうして一連の事件は幕を終えた。新たなる殺人と共に。



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