前編
「いらっしゃいませ」
入店客に声を掛けたオレは入ってきた少女を見て驚いた。
年の頃は14、5歳。
フワフワのストロベリーブロンド。大きな翠色の目。レースをたっぷり使ったピンクのドレス。
すごく可愛い。
可愛いが、違和感がある。
この”桃海亭”は古魔法道具店だ。普通の人が日常で使うものは置いていない。店主のオレとしては悲しいが、非常に悪名高い店で観光客は外から見るだけで中まで入っては来ない。店内まで入ってくるのは、知り合いか、掘り出し物を探しの魔術師か、肝試しの悪ガキか、やっかいごとを持ち込む依頼主くらいだ。
店の品物には目もくれず、カウンターにいるオレの所にやってきた。
「こちらで買い取りはしていますか?」
「しておりますが、物によってはできないものもあります」
「こちらを買って欲しいのですけれど」
斜めに掛けたビーズのポッシェットの留め金を外した。
緻密な花柄のビーズのポシェットはいくらするのだろうと考えてしまうほどの高価な品だ。
「いくらで買い取っていただけますでしょうか?」
出されたのは古いコイン。
銀色で絵柄が摩耗してよくわからない。
「拝見してもよろしいでしょうか?」
了解を取ってオレは手に取って眺めてみた。
こちらも違和感がある。
魔法道具というのは魔力を帯びている。
魔術師、特に中級以上の魔術師になれば、魔力の有無は簡単に判別できる。だから、古魔法道具店の店主は魔術師ときまっている。前の店主ガガさんも魔術師だった。
「こちらはどこで手に入れたのでしょうか?」
「話さなくてはいけませんか?」
困ったように大きな目で見あげる。
オレは魔力がない。だから、品物に魔力がついているかの判定はできない。ただ、いつも魔法道具に触れているせいか、なんとなくわかる。
これに魔力はついていない。
「シュデル」
店の奥にいた店員を呼んだ。
「いらっしゃいませ」
そつなく客に挨拶すると、オレの所にきた。
コインを見せた。
チラリと見たシュデルが首を振った。
記憶もついていなければ、魔力もないらしい。
となると、頼りはムーだけだが。
「呼んできましょうか?」
「頼む」
コインを少女に返せばいいだけだとわかてっているのに、妙な違和感がそれをさせない。
「はぅーー…」
あくびをしながら出てきたムーにコインを見せた。
ムーの目つきが変わった。
「ウィルしゃん、どうしました、このコイン」
「こちらのお嬢さんが買い取って欲しいと…」
「こんなのこうでしゅ!」
オレの手からひったくると、少女の顔に投げつけた。
キャと小さな悲鳴を上げて額に手をやった少女。
「おい!」
「出ていくっしゅ!」
ムーにしてはビシッと決まったポーズで、扉に指をさした。
クッという悲鳴とも笑い声ともつかない押し殺した声が、少女の口から漏れた。
『ムー・スウィンデルズか』
しわがれた声がピンクの唇から流れ出す。
「ちがうしゅ!」
否定されるとは思っていなかったのだろう、驚いた顔でオレを見た。
オレは危険回避の為、すぐに返事をした。
「本人だ」
「ちがうしゅ!ペトリの子しゅ!」
まだ、ペトリの家に戻るのを諦めていないらしい。
『ランデスの聖杯を用意しろ』
男とも女ともつかない、年老いたかすれ声
ムーが首を傾げた。
「なんで、ボクしゃんが用意しないといけないしゅ?」
『用意できなければ、この子は殺す』
「いいでしゅ、遠慮なく殺してくだしゃい」
少女が黙った。
「ウィルしゃん、とっととお外にポイしてくだしゃい」
ふわぁーとアクビをして2階に戻ろうとする。
『待て!』
少女が慌てて、ムーを呼び止めた。
「なんしゅか?」
イヤそうなムー。
『この子が誰なのかわからないのか?』
「わかるに決まってるしゅ」
ムーは眠そうに目をこすりながら言った。
「レザ聖王国の姫巫女しゅ」
オレとシュデルは固まった。
ルブスク大陸の北西にある宗教大国。
現在、皇巫女と3人の姫巫女の予言により、政治が執り行われている。信者数十万という巨大宗教団体だ。
『殺してもいいというのか!』
「ボクしゃん、関係ないしゅ」
「本当に関係ないのですか?」
シュデルが聞いた。
「ないしゅ」
ケロリとして言うムー。
少女の大きな目に涙が浮かんだ。
グスッと鼻をすすると、オレを見た。
『そなたは、もしかしてムー・スウィンデルズの友人のウィル・バーカーか?』
「違う!」
「店長」
「オレはウィル・バーカーだが、ムーの友人じゃない!そこは譲れない!」
少女はグスッとまた鼻をすすった。
『ウィルとやら、ムーを説得してはくれないか?』
仕草は幼いが、声はしわがれたままだ。
「断る」
「店長…」
オレの態度にあきれているシュデル。
『そこな少年』
「はい?」
『2人に取りなして…』
「無理です」
『何もしないとこの娘は殺されるぞ』
「ボクは店員で、ウィルは店長で、ムーは居候で、つまり、ヒエラルキーではボクが一番下なんです」
少女が首を傾げた。
『その話からすると、一番下は居候のムー・スウィンデルズ殿ではないか?』
「そうなんですか、店長」
「違うに決まっているだろ。ムーは当桃海亭の住人じゃない。勝手に住んでいるゴキブリと同格だ」
「ひどいしゅ!」
「飯は勝手に喰う、部屋は不法占拠、仕事は手伝わない。怪しげな召喚術で店は壊す、オレとシュデルの命を危険にさらす、ゴキブリの方がまだましだ」
「魔力のないウィルしゃんがこの店をやれるのは、誰のおかげだと思っているんしゅか!」
「シュデルのおかげ」
「とりゃーーーしゅ!」
ムーの短足キックを、オレがヒョイと避ける。
オレとムーのやりとりを見て、オレ達に頼むのは無理と悟ったのだろう。少女はススッとシュデルの側によった。
『頼む、この少女を助けてくれまいか』
「あなたが殺さなければよいのではないのですか?」
『ランデスの聖杯がないと、この少女は死なざる得ないのだ』
「わかりました」
『わかってくれるか』
シュデルは恭しく頭を下げた。
「どうぞ、お帰りください」
『な、なにを』
「当店は古魔法道具の店であり、失せ物探しは行っておりません。宝探し専門の冒険者や探索屋に頼むことをお勧めします」
丁寧に、だがきっぱりと断るシュデル。
桃海亭に1年以上もいるのだ。桃海亭がルブクス大陸で最も危険な古魔法道具店であることは学習している。
持ち込まれた依頼をいちいち引き受けたら、命がいくらあってもたりない。
『だが…』
少女が一歩前に踏み出した。
コロン。
ポシェットから、何かが落ちた。
「わっしゅ!」
飛びつこうとしたムーの襟首を捕まえた。
「欲しいしゅ!レザ聖王国の蒼水晶しゅ!」
バタバタと足をばたつかせて、オレの手から脱出しようとする。
落とした少女は慌てて水晶を拾い上げようととした。
コロン。
触れる直前、水晶は動いて少女の手を逃れた。
再び拾い上げようとした少女。
やはり、コロンと逃げる。
もう一度、捕まえようとして逃げられた時、少女は立ち上がった。
恐ろしいものでも見るような目で、水晶を見ている。
「はぅー、ダメしゅ」
「ダメだな」
ムーががっくりして動きを止めた。
水晶はコロコロと転がり、シュデルの足元に止まった。
気がつかないふりをしているシュデル。
オレはムーを床に降ろした。
「しかたないだろ」と、オレ。
「しかたないしゅ」と、ムー。
オレ達の許可が出たと理解したシュデルが言った。
「おいで」
差し伸べた手に水晶がピョンと乗る。シュデルが顔の前に持ってくると、ユラユラ揺れ始めた。
シュデルは相づちをうちながら聞いていたが、水晶が動くのを止めると顔をあげた。眉がわずかに寄っている。
「店長、困りました」
「どうした?」
「これはムー・スウィンデルズの仕事と思われます」
ムーは再び「ボクしゃん、ペトリの子しゅ」と喚いたが、オレもシュデルも当然無視。オレは話の続きをうながした。
「今回依頼に来られたのは、レザ聖王国第11代姫巫女ラケシス様、現在、遠話で我々と話されているのはレザ聖王国第15代皇巫女エイレイテュイア様です」
少女がうんうんと幼い仕草でうなずいた。
「レザ聖王国の予言は、皇巫女と姫巫女による天啓と占いで出されます。もちろん、占いも行われているのですが、気候に関係するものは環境データの収集から予測した結果を占いとして公表しているそうです」
少女が困った顔でシュデルを見た。
あまり公にされたくない情報なのだろう。
「ランデスの聖杯は環境データの収集をしていたものなのです」
「それほど大切な物なら、厳重な警備をしていたんだろ。こっそり持ち出せるような小さなものなのか?」
「違います。死んだんです」
「死んだ?」
「ランデスの聖杯は魔法道具ではなく、召喚獣なんです」
二百年以上前、ムーの先祖、スウィンデルズ姓の魔術師が呼び寄せた異次元召喚獣らしい。召喚魔術師が死ぬと帰るのが普通だが、ランデスの聖杯と呼ばれる召喚獣は帰らなかったらしい。いままで環境データを集めていたが、先月、崩れるように壊れて消滅したらしい。
「今年の秋まではデータがあるそうですが、その先がない為に、冬の天気予報は外れる可能性が高いそうです」
ムーが床に転がっていた銀のコインを拾い上げた。
「それで殺すしゅか」
「そういえば、殺すと言っていたな」
「はいしゅ。予言が外れたら、姫巫女を一人バッサリしゅ」
少女がビクッとした。
「このコインはクジでしゅ。これを引いた姫巫女が切られるしゅ」
少女の目にまた涙が浮かんだ。
「水晶が言うには、ランデスの聖杯と呼ばれていた召喚獣とスウィンデルズ家とには何か関係があるみたいです」
「はぅ??」
ムーが目を丸くした。
知らなかったらしい。
「ランデスの聖杯の事は、スウィンデルズ家の者が対処するとの約束があったそうです」
「本当なのか?」
少女が強くうなずいた。
「皇巫女に伝わる口伝です。ランデスの聖杯を失うことになった場合、その時代のスウィンデルズ家の召喚魔術師が次のランデスの聖杯を用意してくれる約束です」
声が少女の声に戻っている。
オレからムーの視線を移した。
「だから、ムー・スウィンデルズはランデスの聖杯を用意しなければならないのです」
強い口調でで断言した。
「イヤしゅ」
あっさりと拒否。
「話を聞いていなかったのですか、約束です」
「誰がしたしょか?」
「スウィンデルズ姓の魔導師が」
「ずうっーーーと昔の人の約束なんて知らないしゅ。ボクしゃん関係ないしゅ」
「約束を破るというのですか!」
「しつこいでしゅ、本当に約束したかわからないしゅ」
「われわれの話を疑うのですか!」
「そんなに言うなら、証拠をみせるしゅ。約束したっていう証拠しゅ」
ホレホレと手を出す。
絶句している少女。
さすが皇巫女と姫巫女のセット。ムーをペトリ姓で呼ばなかったことで予想できたが、世間を知らなさすぎる。ムーが我が儘で常識がないのは、魔術師の間では常識だ。
「そういえば、お昼寝途中だったしゅ」
2階に戻ろうとするムー。
「待ってください」
慌てて止めた少女。
「もう、終わりしゅ」
「礼はします」
「礼…何をしゅか?」
「金でも物でも、私たちが用意できるものなら」
ムーはちょっと考えるように首を傾げた。そのあと、ニマーと笑った。
「何でもいいしゅか?」
「私たちに用意できるものでしたら」
「じゃあ」
ムーの頬がポッと赤くなった。
「その子、欲しいしゅ」
少女の目が見開いた。
「レザ聖王国第11代姫巫女ラケシスをもらうしゅ」
言い終わる前と同時にオレの蹴りがムーの尻を直撃した。
「なにするしゅ!」
「人身売買禁止」
「買うわけじゃないしゅ!もらうだけしゅ!」
「もっと悪いだろうが!」
「ウィルしゃん、自分がもらえないからって、邪魔するのよくないしゅ!」
「何を言っているんだ」
「可愛いしゅ。ポワポワしゅ。「お帰りなさい」言ってもらいたいしゅ」
店の扉を開けるとこの可愛い少女がカウンターから「お帰りなさいませ」と笑顔で迎えてくれる。
ちょっと、いや、かなり、本音を言えば、ものすごーーーく嬉しいかもしれない。
「店長、何を考えています」
氷のようなシュデルの声。
「どうやって、ムーを止めようか考えていた」
「店長のことだから、そうだと思っていました。ただ彼女に勘違いされるといけないので、ゆるんだ顔はひきしめておいてください」
目が笑っていない。
『まさかと』
少女の声が、またかすれた。
『その銀の瞳、シュデルという名前、シュデル・ルシェ・ロラムか?』
嫌悪の響き。
シュデルの瞳は銀色に見える。よく見ればグレーなのだが、光彩が独特の反射をするので銀色に見えるらしい。ロラム王族の直系の男子に時々でる伴性遺伝の瞳だ。出自を証明するにはいいのだが、それ以外はやっかいごとの種にしかならない。
「挨拶が遅れました。シュデル・ルシェ・ロラムと申します」
腕を前に組む正式な挨拶。
『なぜ、ここにいる。ロラムは王宮の石牢に幽閉したはずだ』
シュデルは整った顔に浮かべた笑顔を崩さず、表向きの理由を述べた。
「この度、偉大なる魔術者ムー・ペトリ殿にご教授いただけることになり、この桃海亭におります」
『ムー・ペトリというと、女神召喚の大罪を犯した愚かな魔術師のことか!』と、怒鳴った後に気がついたようだ。
顔色が変わった。
『まさか、ムー・スウィンデルズとはムー・ペトリのことか』
「はいしゅ」
笑顔のムーが返事をした。
『なんということだ』
絶望という表情でオレをみた。
「なぜ…」
声が可愛かったので、つい返事をした。
「ムーは2歳でペトリ家に養子にでた」
「私はどうすれば…」
「もらっちゃうでしゅ」
ウフフッと笑うムー。
悲痛な表情の少女。
冷たい笑顔のシュデル。
オレはため息をついた。
「あー、わかった。さっさと片づけよう。ムー、ランデスの聖杯を召喚しろ」
「お礼の約束がまだしゅ」
「そこのレザ聖王国の姫巫女」
「はい」
「ムーがランデスの聖杯を呼ぶお礼に欲しいそうだ。どうする?」
「わかりました」
即答。
ランデスの聖杯を手に入れることが最優先という、はっきりとした意思表示。
「約束されたぞ、さっさと呼べ」
「召喚するモンスターがわかりましぇん。ランデスの聖杯はレザ聖王国がつけた呼称でしゅから」
少女が手で丸をつくった。
「ランデスの聖杯の形は円盤状で…」
「あ、いいから」
オレは少女をとめた。
「シュデル、頼む」
「わかりました。おいで」
シュデルが片手をあげると展示してあった水差しが飛んできた。
シュデルの前に停止する。
「おい、あの水差し動いたか?」
「動いたの見たのはじめてしゅ」
「今、どれだけの道具が動くんだよ」
「この間、窓際のスクロールが勝手に開いて虫干ししたの見たしゅ」
オレとムーの聞こえよがしのヒソヒソ話を無視して、シュデルは蒼水晶を水差しの中に入れた。
「ランデスの聖杯だからね」
優しく言い聞かせた。
水差しの注ぎ口から、煙のようなものが現れた。煙が集まって形になる。土色の円盤で杯というより、盆に近い形状だ。
「あ、こりゃダメしゅ。呼べないしゅ」
ムーが断言した。
「お前が呼べないタイプの召喚獣なのか?」
「違いましゅ、ここでは呼べないのしゅ」
「どこならばいいんだ?」
「一番いいのはレザ聖王国のランデスの聖杯が置いてあった場所しゅ」
「聖なる場でないと呼べないのか?」
「まさかでしゅ。ここでも呼ぼうと思えば呼べましゅけど、呼んだらウィルしゃん怒ります」
「危険な召喚獣なのか?」
「危険はないしゅ、直系が30メートルくらいなだいけしゅ」
桃海亭より大きい召喚獣。
「わかった。レザ聖王国まで行ってこい」
「ウィルしゃんは?」
「店がある」
「シュデルに……あ、ダメしゅ」
シュデルと道具たちで留守番させて、桃海亭が無事だった確率は10パーセントに達しない。
「元気でな、ムー」
さあ、終わった、仕事に戻ろうとしたオレに、しわがれ声がかけられた。
『すまないが、そなたも一緒に』
「オレには店がある」
『ムー・ペトリ殿を我らだけでは』
「大丈夫だ、なんとかなる」
『お礼に金貨100枚でどうだろう』
「金貨500枚なら考える」
断るためにあり得ない金額をふっかけたのに
『わかった。金貨500枚支払おう』と言われてしまった。
ムーの付き添いで金貨500枚。無事手に入れられたら、しばらく飯の心配をしないですむ。
「シュデル、出かける準備をしろ」
『いかん!』
しわがれた怒声。
『シュデル・ルシェ・ロラムを我が国にいれるわけにはいかん』
入れられない理由が予想つくだけに、ごり押しはしにくい。
「わかりました。ボクは留守番をしています」
笑顔で言うシュデル。
水差しの中から蒼水晶が飛び出して、シュデルの手に乗った。ゆらゆら揺れている。
「大丈夫、気にしていないから」
ゆれは止まらない。先ほどよりも長く、何かを訴えるように動いている。
「できるけれど、伝えていいかは」
言われたシュデルが困っている。
水晶は手の上で跳ね出した。
「わかった、わかった。伝えるだけだよ」
そう水晶に言うと、ムーを見た。
「レザ聖王国の水晶をご存じですよね」
「皇巫女と三人の姫巫女が、紅、蒼、翠、黄、の4つの水晶でそれぞれが占っているしゅ。常識しゅ」
「実は5番目の黒水晶が存在するらしいのです」
少女が息を飲んだ。
レザ聖王国のトップシークレットらしい。
「レザ聖王国建国の時から5つの水晶があり、4つの水晶が占いの役目を担ってきました。黒水晶では占いはできないため、何のためにあるのか現在ではわからないとされているそうです」
『黒水晶が何のためにあるのか、どうやって使うのか、そなたにわかるのか?』
しわがれた声の問い。
「その問いには答えられません。ボクにできるのは、蒼水晶に伝えて欲しいと頼まれたことを伝えるだけです」
シュデルは手に乗った蒼水晶をそっとつまみあげた。蒼水晶はわずかだが光を放ち始めた。
その蒼水晶をムーに差し出す。
「レザ聖王国に行きましたら、召喚前にこの蒼水晶を黒水晶に触れさせてください」
「くっつけるだけでいいしゅか?」
「はい、一瞬でかまいません。それで用件はすみます。お二人とも気をつけて行ってきてください」
「おい、シュデル」
「はい、なんでしょうか?」
「その蒼水晶が言っていた伝えて欲しいという内容を聞いていない気がするんだが」
「それはもう終わっています」
ムーに渡した蒼水晶を指した。
「伝える相手は黒水晶で、蒼水晶に伝言を頼みました」
シュデルの言っている内容を理解したオレは、今日何回目かの深いため息をついた。