小学生
その瞬間、教室の生徒達は息を飲んだ。
いつもうるさいお調子者も、すっかり静かになっている。
そして端麗な足音を鳴らし教壇に歩み寄った人物は、黒板に背を向け姿勢を正した後、生徒に向けて言った。
「八瀬凪です」
そう名乗った少女は、目測で身長130cm程しか無かった。
身長130cmというと、小学三年生の平均身長だ。
おそらく、ここにいる生徒全員が身長に驚きを感じているだろう。
しかも、顔も童顔なので更に外見相応っぽい。
生徒の間では、沈黙が続く。
あまりにも奇想天外な展開が起こった場合、人間は脳の処理がついて行かないものだ。
そして凪は、細くて短い腕を上げ、黒板に自分の名前を書き始めた。
生徒は呆気に取られた表情で凪を見つめている。
一部の生徒は、腑に落ちない表情をしている。
しかし、凝視されているにも拘わらず凪は、心の底から愉快そうな笑顔を浮かべている。
「なんか、みんなに言いたいことはある?」
生徒の異変に気付いた教師が、凪に問いかける。
凪は、丁度名前を書き終わったところだ。
再び生徒の前に顔を向けた。
「えと…」
照れているのか、緊張しているのか、凪は顔を赤らめながら下を向き、呟いた。
生徒の視線は凪へと向けられる。
そして、息を吸い、精一杯に言葉を吐き出した。
「今日から、このクラスで過ごしていくのでよろしくお願いします!」