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万年Bクラス。されど最下位になるほどでもない。

「ばかやろうっ!またBクラスかよ!」

「いつになったら優勝するんだ!最下位じゃなきゃいいってわけちゃうんやぞ!」

「勝てるピッチャーと打てるバッター少なすぎるやろ!補強せえ補強!」



 スタジアム中から飛んでくるヤジとゴミ。その中をユニフォーム姿の選手たちはうつむきながら歩いていた。監督やコーチたちも同じような感じだ。

 ただ、その最後尾、ふんぞり返りながら憮然とした表情で歩く選手がいた。右腕にはアイシングが巻かれている。

 その選手に対して、スタンドからのファンの反応は、それまでと百八十度変わった。


「鈴木ー!今日負けたんはお前のせいじゃねえぞ!」

「そうだ!うちみたいなポンコツチームで2年連続15勝は立派だぞ!」

「誰もあてにならんからな!来年もお前だけがたよりや!」

 ヤジの中にあった「勝てるピッチャー」に対しては、こそばゆいぐらいの労いの言葉が飛ぶ。


 対してその声援を受けたピッチャー、鈴木健一は内心いらついた。

(うるせえ!2年連続で同じ勝ち星なんざ嬉しかねえんだよ!)


 この鈴木というピッチャー、高卒4年目にしてすでにリーグを代表するピッチャーだ。甲子園の優勝投手としてドラフト1位で入団。1年目に13勝で新人王に輝くと、以後11、15、15と勝ち星を重ねている。ただし、負け数も多く11、12、14、10である。ちなみに今年は2年連続最多勝と防御率1位のタイトルを手にしている。

(俺一人タイトル取っても仕方ねえんだよ。ああ~優勝してえ)

 周りがうらやむほどの結果を残しながら、健一は悶々とするのだった。


 一方で「打てるバッター」には、ヤジの集中放火が浴びせられていた。

「ゴルァ高橋ぃっ!その扇風機ぶりなんとかせえっ!」

「いつもいつもホームランばっか狙いやがって!個人プレーも大概にせえっ!」

 名指しで非難されたバッター、高橋謙二は、同じような剣幕で反論した。

「うるせえっ!!3割30ホームランの打点90だぞ!チーム三冠王に対してその言い草ねえだろ!誰も打てねえから俺が一気にランナー返してやってんだぞ!!」

 そう。高橋からすれば、打率3割1分5厘、36本塁打、90打点の成績に加え、他のバッターが揃い揃って2割5分以下、ホームラン一桁の中での数字である。ブーイングされるいわれはないのだが、シーズン206三振の日本新記録。前人未到の3年連続200三振ではもう一つ彼の言い分に説得力を欠いた。

 彼もまたプロ4年目だが、入団はドラフト6位。サーカスの空中ブランコばりの軌道を描く超アッパースイングが問題視され、矯正を命じられるが拒絶したため半年も『干された』。ところが、シーズン終盤に故障者が続出した恩恵で試合に出るようになると、いきなり代打で5打席連続ホームラン。即一軍に引き上げられると、10試合で8本のホームランをかっ飛ばし一躍時の人に。翌年から一軍に定着すると24、33とホームランを増やし、今年は全試合で四番についたのである。


 鈴木健一と高橋謙二。この若手二人が引っ張るプロ野球チーム、和歌山フェニックスは誕生して半世紀、リーグ優勝なし、Aクラスたった6回、しかし最下位も3回という非常に中途半端なチームだった。





「いよいよこれは喫緊の課題ね。何としても来年優勝しないと・・・」

 フェニックスの本拠地、紀州ボールパークのバックネット裏にある貴賓室。そこから様子を見届けていた女性は、仁王立ちで腕組みしながらつぶやいた。

 彼女は来シーズンからこの球団の新オーナーとなる新井美穂あらい・みほ。親会社の一つ、阪和建設の社長令嬢である。アメリカの有名大学卒業後、社長秘書を3年務めたのち、25歳の誕生日プレゼントとして、先代オーナーの祖父からオーナーの権限を委譲された。ポニーテールがトレードマークで、誰もがうらやむ才色兼備ながら大の野球ファンで、下手な解説者よりも卓越した野球の知識を持つ。

「いくら和歌山が野球が盛んな県であるとはいえ、ここ数年甲子園では初戦敗退の体たらくで大学以降の土壌も貧弱。おまけにトップのプロ野球がパリーグのお荷物球団・・・。改めて口にすると萎えるわね・・・だからこそ」

 そう言って振り返り、自分の後ろにいたかなりふっくらした中年に言い切る。

「パリーグで一時代を築いたあなたにこの球団をお任せしたいんです!。あのころのライジングスのように、このフェニックスを強くしてほしいんです」

 新井が頼ったのは、自身が大ファンだった東武ライジングス元監督の杉山重造すぎやま・しげぞうだった。

 人呼んで「仏の重造」。現役時代はセリーグの帝国ガリバーズで正捕手を務め、その後いくつかのコーチを歴任したのち、東武の監督に。自主性を重んじつつ規律を敷いたチーム作りで、在任12年間で6連覇含むリーグ優勝9回、日本一7回の名将であった。

 当初、女性である新井に対していぶかしんでいた部分があったが、彼女の真剣さに監督就任を快諾。その際に「ドラフトをはじめとした選手補強の権限の委譲」を条件に加えた。

「ふむ。しかし、ただ弱いだけならやりようはありますが、このチームは少々骨が折れそうですな。いいんですか?こんな老いぼれで」

 改めて杉山は念を押すように尋ねたが、新井に迷いなどなかった。

「育てながら優勝できる監督なんてあなたしかいません。・・・お願いします」

 そう言って新井は頭を下げた。そして杉山は言った。

「あなたほどの御嬢さんに頭を下げさせて断ったのでは男がすたります。できる限りのことはしましょう」




 そして時間は少し流れてドラフト会議の日。12球団のスカウトたちの腕の見せ所、あるいは金の積み所とも言うべきドラフト。無用な入団拒否、強行指名による指名枠の無駄をなくすという名目で、数年前から逆指名制度が復活した。当然ながら好きな選手をより取りやすくなったのだが、かかる資金が青天井という問題は放置されたまま。ただし乱用を防ぐために「1枠使用した場合、来年のドラフトで上位2位の指名権を放棄」「2枠使用した場合は逆指名含め6人を必ず指名し、かつ7位以降の指名権を放棄する」という条約はついた。とはいえ「球界の盟主」と呼ばれる金満球団ガリバーズの独壇場かと思われたが・・・。会場は早くもざわめいていた。

「和歌山が逆指名制度を使うだって?」

「それも二枠も?そんな資金のある球団だったか?」

「和歌山が取れるような逆指名格の選手なんているのか?」


 そして和歌山の獲得選手が読み上げられると、会場は和歌山陣営以外総立ちとなった。


『和歌山、逆指名1位枠 渡辺和真 22歳 内野手 京浜大学。2位枠 佐藤大輔 21歳 捕手 泉州体育大学』


「何ぃ!こ、こんなダブル獲りありなのか!」

「渡辺は関東六大学最高傑作のショート、ガリバーズが10億積んだという噂があるというのに・・・」

「佐藤は関西ツインズじゃないのか!なんでよりによってパリーグのお荷物に。しかも1位クラスなのに2位!?」

 11球団の編成担当たちが驚くのも無理はない。渡辺、佐藤の両名は、今ドラフトにおいて大学生の特A級選手。逆指名の線がなければどの球団も1位指名を予定していた選手。それをまさかのお荷物球団が二人ともとってしまったのだから無理はない。

「やったわね!杉本部長!」

「はい!我が球団、始まって以来の大勝利です」

 他の動揺を尻目に、新井オーナーはガッツポーズを作る。

「それにしても、あなたのおかげです、杉山監督。あなたが交渉に来てくれたおかげで、逆指名は成功しました」

「いえいえ。私の力など微々たるものです。私の言葉に彼らが動いてくれた、それだけのことですよ」

 スカウト部長の杉本と握手を交わした杉山監督は照れくさそうに答えた。


 片や野球部の宿舎でその瞬間を見届けた渡辺は、フラッシュが次々とたかれる中、ふんぞり返りながら応答した。

「確かに帝国さんも来て、金銭面は帝国さんのほうが倍ありました。しかし、監督直々に「1番とポジションを保証する」とズバリ言われてはね」

 片や大学の学長室で安堵の表情を浮かべる佐藤も、マスコミの質問に答えていた。

「杉山さんと捕手談議を交わして、共感できる点が多くて・・・。それに、甲子園でバッテリー組んでた健一のいる球団ですからね。特に断る理由もありませんでした」


 ただし、ドラフトがそれで終わればいいのだが、和歌山が世間に与えた衝撃はとどまらない。

『第3回希望選択選手(3位)、和歌山。中村哲平、20歳、内野手。四国独立リーグ・高知ドランホース』

『第4回希望選択選手、和歌山。山本真也、19歳、内野手。北関東独立リーグ・栃木バンディッツ』


「ど、独立リーグが3位と4位。まさか・・・」

「この二人は我々も狙っていましたが、こんな上位で指名されるとは・・・」

「あと2人・・・もう和歌山から目が離せんぞ」


 すっかりドラフトの主役となった感のある和歌山。そこにとどめとばかり衝撃の指名が入った。

『第5回希望選択選手、和歌山。田中友里、22歳、内野手。女子プロ野球・京都フレイフェアリーズ』

「じょ、女子プロ野球!そんな馬鹿な」

「こんなことが許されるのか!男の世界に女なんて」

「ふざけるな和歌山!ドラフトは茶化しの場ではない!」

『第6回希望選択選手、和歌山。清水純、19歳、投手。京葉女子短期大学』

「ふ、二人・・・」

 まさかの女子の指名に会場は怒号が飛び交ったが、立て続けに二人も指名されたとあっては、かえって静まり返るだけだった。



 そして年末には、指名した六人の入団会見が行われた。杉山監督を中心に、六人がスーツの上に背番号入りのユニフォームを来て着席した。新井オーナー自らが司会を務め、まずはそれぞれに抱負を述べた。

「背番号5、1位の渡辺和真です。まずはトリプルスリーを目標に、ショートのベストナインとゴールデングラブ、新人王を取りにいきます」


「背番号2、2位指名佐藤大輔です。また健一とバッテリーが組めることになって嬉しく思います。強肩強打の前評判どおりに活躍できるよう頑張ります」

「3位指名、背番号8番、中村哲平です。自分は身長165センチですが、この数字以上のホームランを打って、『チビ=脚と小技で勝負』の図式を潰したいと思います」

「4位の山本真也、背番号は7です。どんなゴロでも捌く自信は誰にも負けないです。追い付く打球全てをアウトにできるよう頑張ります」


 続いていろんな意味で注目を集める女性選手二人。まずは友里から答えた。女性ながら179センチとバレーボール選手並みの長身。「実はロン毛の男」説も出たが、ブラウスのボタンがきつそうないわゆるロケット乳(バスト81)と声色で女子と確定した。

「背番号は高卒から4年お世話になった女子プロで記録した通算打率4割にちなんで4です。自分のバッティングが男相手に通じるのか楽しみです」

 そして最後。大学を中退してまで入団してきた清水であるが、そんな大胆な行動に出るとは思えないほど、ガチガチに緊張していた。

「え、え・・・と、その、頑張ります・・」


 それだけ言ってあとは黙り込んでしまった。



 そして杉山監督がマイクを持った。そして、開口一番にこう言った。


「ええ、それぞれが色々と意気込みを語ってくれましたが、一つ訂正しなければなりません。渡辺君」

 集まった記者団、新井オーナー、そして呼ばれた渡辺すらきょとんとするなか、杉山監督は仏様のような微笑みを浮かべながら言った。

「渡辺君。君はショートで頑張ろうとしていますが、私は君をショートで使うつもりはありませんよ」

「はあっ!?」

 杉山監督の発言に、渡辺は声を荒げて立ち上がる。

「ちょっとまてよ。あんた言ったよな。『センターラインの要のポジションを確約する』って」

「ええ。ですが『ショート』とは言ってませんよ」

 さらりと悪びれなく言い切った杉山監督に、渡辺は激昂した。

「っざけんなジジィっ!俺がどれだけショートにこだわってるのか知ってるだろっ!!」

「ええ。デレク・ジーターにとかく憧れていると聞きました。確かに君はショートとしてはジーターに肩を並べられる逸材です」

「だったら」

「ですが、センターに移れば、ジーターなぞ足下に及ばない選手になります」

 続けられた言葉に、渡辺は一瞬表情を変える。

「君ほどの脚と肩を三遊間に収めておくのは実に惜しい。その才能は外野で輝くべきです。その暁は500本塁打と500盗塁の栄誉です」

 かなり嘘臭い説得だが、杉山監督はすべての文言を真顔で言い切る。渡辺は矛を収めて改めて尋ねた。

「俺は外野で化けれるんだな」

「あなたの努力次第ですがね。ただ、それだけの才能であるという確証をしなければ、5年後以降のメジャー移籍を容認しませんよ」

「・・・わかった。今はとりあえずあんたを信じてやる」

 そう言って渡辺は着席した。気を取り直して杉山監督は再び報道陣に言った。

「さて、今回指名したこの六人は、全員私が説得しました。自分自身で獲得したので、全員が戦力であります」

 そう言いながら記者たちを見渡しながら釘を指した。

「よって、3位以下の4人には下世話な質問は控えていただきたい。まずはあなた方が彼ら彼女らに対する色眼鏡をはずしてからです」





 その頃、和歌山フェニックスの本拠地、紀州ボールパーク。

 鈴木をバッティングピッチャーにして高橋がバッティング練習をしていた。誰もいないスタンドに何度も白球が弾んだ。

「なあ健一よ。お前どう思うんだ」

 スイングしながら高橋が不意に健一に聞いてきた。

「どうもこうも・・・女入れてるあたりむちゃくちゃだよ」

 そう言って健一はまたボールを投げ、高橋はそれを打った。

「でもよ。お前の女房をうまくとったらしいじゃねえか」

「誰が監督でもあいつはここに来たよ。高校ん時に行っといたんだ。『ドラフト拒否って大学に行くんだから、プロでも俺とバッテリー組め』ってな」

「なんだよそれ。まるでカップルじゃねえか。ホモッ気でもあんのか」

 そのからかいにカチンと来たか、健一は高橋の顔を襲うビーンボールを投げつける。

「何すんだてめえ!」

「おめえがふざけたことぬかすからだろ」


 ともあれ、和歌山フェニックスは栄光へのスタートを切ったのであった。

1 鈴木健一すずき・けんいち 投手 右投げ右打ち 183センチ81キロ

 最速150キロオーバーのストレートと、100キロ未満のカーブを軸にプロ野球界を生きるフェニックスのエース。新人王を筆頭に若くしてタイトルを多くとっているが、勝ちに対する執念がすさまじく、特に得点圏ではカオス的ピッチングを披露する。


昨年成績 30試合15勝10敗 防御率2.81 奪三振187

タイトル 防御率1位、最多勝、完投数リーグ1位(12)


3 高橋謙二たかはし・けんじ 内野手 左投げ左打ち 188センチ77キロ

 基本貧打線のフェニックスにおいてただ一人まともな成績が見込める四番打者。ホームランしか狙っていない超アッパースイング、打球の9割方がライト方向という超引張り打法で子供の参考にはならないが、それでいて3割30ホーマーを記録する奇天烈スラッガー。


昨年成績 144試合 打率315 36本塁打 90打点 9盗塁

タイトル パリーグ一塁手ベストナイン 打率6位 本塁打5位 打点3位

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