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第2話 Continue approach

 朝はこれからだ。もう少しで、ラッシュが始まる。飛行機をとめておく駐機場にはたくさんの飛行機がいる。これからこの飛行機たちが殆どいなくなる。離陸ラッシュだ。逆に、夕方や夜には着陸ラッシュがある。

"All Nippon 1821, wind 110 at 5, runway 18, cleared for take-off."

"Cleared for take-off, All Nippon 1821."

 ちょっと響きの違う轟音が聞こえる。ターボプロップ、要はプロペラ機の離陸だ。ANAのDHC8-Q400。なかなか小さく、そしてプロペラ機であるから人気は地味だが、高翼機という美しさが僕は好きだ。彼女もなかなかスタイルがいい。

 ブーンと音を響かせて、ご機嫌に飛び立つ。軽いからエアボーンも早い。僕の目の前を通るときには、もうギアの格納を始めていた。

"All Nippon 1821, contact departure 118.25."

"Contact departure All Nippon 1821, good-day."

"Good-day, have a nice flight."

 空港に通い詰めると、声やその言葉から管制官の性格が分かってくる。この人は前にも聞いたことが、いや「拝聴」したことがある。「常連」ともなれば、ここのいろいろも分かってくるというものだ。

 こうして「人」を通じて飛行機を見ると、飛行機にも表情や性格があるように思えてくる。さっきのQ400などは、笑いながら飛んでいった。朗らかな笑い方だ。大きく口を開けているのが見えるような。今から飛ばんとしている737は、同じく笑ってはいるが、余裕を含んだ笑いで、いわばニヤリつた笑い方に見える。格好いいじゃないか。

 737の見送りを終えたところで、滑走路手前で停止する飛行機を見つけた。そうか、と思って目線をやや上に上げると、案の定光点を見つけた。遥か彼方の到着機の着陸灯だけが、私に彼女の存在を認識せしめたのだ。

「…さっきの通信のあの娘か。」






"Continue approach, Singapore 672."

 遠路はるばる、というにはあたし的に近すぎる気もするけど、国をまたぐとやっぱり長距離をやってきたイメージになる。行先が島国だから、海を挟んで、っていうのも大きいんだろうな。でも、アメリカやロシアみたいに、陸の上を飛んではいるけど、東端から西端を目指すともはや国を2つ3つ越えたような気分になることもあるし、逆にヨーロッパなんかを飛んでいると、海を知らないうちに越えていたり、知らないうちに4つも5つも国境を越えていたりもする。

 今も私は海の上にいる。国と国をまたぐような広大な海じゃなくて、すぐ近くに岸が見える。と思っていたら、陸の上空に入った。あたし速すぎて、いろいろゆったり考えたくても考えられないのよねえ。今日のご主人様も、そのことばかり気にしてる。思考をスピーディにする訓練を受けているとはいえ、元々が元々よねえ…。

"Singapore 672, boeing 737 is take-off-rolling, cleaed for land to runway 36."

"Cleared for land, Singapore 672."

 なんて思っていたら、もう着陸許可。ご主人様の指示に従って旋回しながら、ギアを下ろす。うぃーん。

 今日は天気がいい。ビジュアルアプローチが承認されたから、定められたコースより旋回が忙しめだけど、だからこそ気持ちいい。ぐいっと体が斜めって、すぅーっと曲がって飛んでいく。

 旋回を終わらせて、滑走路に正対すると、ずっと向こうに飛んでいった737ちゃんが見える。日本航空の子かな?ずいぶんと得意気だけど。あたしは、人間が小さい子を見守るような気持ちで微笑んだ。

 さて、ちょっぴり気合を入れるわよ。ご主人様も緊張の面持ち。ミスは許されない…。ま、そうそうミスなんてないし、ご主人様がミスしてもある程度は私がフォローするわ。フォローしすぎて逆にミスに従ってしまうこともあるけど。

 風はイイ感じにアゲインスト、向かい風。詳しい話は抜きにして、向かい風の方が飛びやすいのよ。離陸は追い風だと思ってる人もいるみたいだけど、むしろ追い風なんて危なくてしょうがないんだからね?

 どっすん、きゅるきゅっ、ぐうぃぃぃぃぃぃん、ごわあぁぁぁぁぁ。

 着地、タイヤ摩擦、タイヤ回転数急上昇、スラストリバース。

 またうっかりしてたらすでに着陸してた。気の休まる暇もないわね。

 今日もいっぱいの見物客さんね。とんでもないレンズ持ってるカメラマンもたくさん。旋回の時のびゅーちふるなあたし、ちゃんと撮ったでしょうね?

 あら?

 微笑みを見つけた。あたしと同じ微笑みだった。我が子を見守るような、ゆったりとした目で、あたしを見つめる一人。

 私のこと、見てくれたのね。

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