3(それ)
平日の夕暮れ街を歩くのは妙な気分を誘った。中高生がうろうろ。主婦がちらほら。自分だけがこの風景にそぐわない。自分だけがこの風景に馴染まない。
わたしは少し足早に公園へと向かった。そこは子供の頃からある馴染みの公園だった。父や母に連れられ、姉や妹と一緒にこの公園で遊んだ。
わたしたちが団地を出たのは、わたしが中学生の時。父が近くに家を建てた。一丁目が二丁目になった程度の引っ越しだったから、生活圏は変わらなかった。
久しぶりの公園。遊具と砂場と芝生と時計台。全体的に古びた感は否めないが、見知らぬ新しい遊具もあった。基本は変わっていない。けれども、どれもスケールが小さくなったように感じた。
ああそうか。迷い込んだアリス。モノが小さくなったのではなく、わたしが大きくなったのだ。
公園の中をぶらぶらと歩いた。時間のせいかもしれない。人影なんて、なかった。
記憶を頼りに向かったベンチに、マエダの姿はなかった。ルンペンはどっかに行ってしまったようだ。六月の夜はまだ寒いし。
ちょっと落胆した。そんな自分に狼狽した。だから遊具の脇にあるベンチの上を軽く払って、わたしは座ってタバコを吸うことにした。
深く煙を吸い込んで、ふと、ベンチの横に在る金色のそれが、遊具にしてはイササカ奇妙だと思った。どう見ても子供が遊ぶサイズじゃない。わたしの背丈の倍? それほどでなくても二メートルはあろうかと云う巨大な丸い玉。その表面は、ところどころに長さ二十センチくらいの突起が幾つも飛び出している。云うならばそう……サザエの殻。でも金色。
ジャングルジムにしたって幾ら何でもアバンギャルド。安全面から見ても教育面から見ても、公園に置くには如何なものか。何より金色と云うのがよく分からない。
わたしは金色のそれを見ながら、もくもくとタバコを吸った。吸い終わると地面でもみ消し、ジャケットのポケットから出した携帯灰皿に吸い殻を入れた。それからブラウスの裾で眼鏡のレンズを拭った。
金色のそれは夕日を浴びて、赤い光を反射する。
「……マエダ?」
ふと、言葉がするりと口から出た。
わたしは眼鏡を掛け直し、頭を掻いて、もう一度まじまじと金色のそれを見た。
「先輩」
金色のそれはマエダだった。