24(潮のにおい)
受け入れる──繭に篭ったマエダを、繭として受け入れる。
わたしはマエダの言葉を思い出した。
わたしのいる世界と、繭になったマエダのいる世界は全く違うのだと。だから同じ尺度では測れない。同じ次元で語れない。
わたしが幾らマエダのことをあれこれ考えても、わたしの持つ定規では、マエダの世界を測ることなどハナから出来ない相談だったのだ。出てこいだなんて、そもそも議論の対象でも無かったのだ。
わたしは膝を抱えた。子供みたいに、ぎゅっと抱えた膝に顔をうずめた。
なら、わたしはいったい、何をしていると云うの?
海へ行けばマエダはタマゴから出てくるとでも思っていたの? そもそも、そんなことを期待していた?
──ワカラナイ。
何を望んでいたのか、何を求めていたのか。
色んなことを思い出そうとしたけれども、何もかも、どれもこれもが、いつか見た月のように滲んで、ちっとも形にならなかった。
「自分ではどうすることも出来ない、そう云うものは確かにあるんだ」
顔を上げると、老人は再び口にくわえたタバコに火をつけていた。「いいじゃないか、そんなことがあっても」
手を振ってマッチの火を消し、爺サマはやっぱり美味しそうに煙を吸い込んで続けた。「まァ、若いうちは目が近すぎて、なかなか難しいだろうけどね」
直ぐに慣れるさ、と、老人は微笑みながら長い長い煙を吐いた。
いつしか外に、夏の色が戻っていた。空を覆っていた雲は流れ、雨は上がっていた。涼しい風が通り抜けた。
わたしたちは爺サマと別れて、再び歩き始めた。
わたしたちは静かだった。
※
やがて日は暮れ、夜になってもてくてく歩き、月が昇り、星が瞬くその下で、わたしたちは海を目指した。
その頃にはマエダの突起はほとんどなくなって、ごろごろと転がっていた。
途中で少し休み、でも先を急いだ。耳を澄ませば、海が聴こえてきそうだった。
いや、わたしは確かに聴いていた。海を聴いていた。
不意に目の前の風景、下半分がばっさり切り取られたかのように真っ黒になった。
潮のにおいがする。
わたしたちは、海に着いた。




