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On the Stage  作者: kanoon
1/5

Drum

知らなかった、そんな風に見えていたなんて。


いや、

知りたくなかった。




薄暗い部屋の中。煙草の匂いが染み付いたライブハウスに、二人だけで居た。

ステージの縁に腰掛けて、すぐ隣で体温も分かるのに距離があって。

俺たちはただ無言でいた。昔はこの無言も気まずいものじゃなく、嫌いじゃなかったのに。

「久しぶり、だな」

いたたまれなくなって、俺はそう漏らした。

「うん、久しぶり」

場に合わない、変わらないふわふわとした声が返事をする。隣は見れないが、悪い空気は和らいだように思う。

「元気にしてた?……よな」

「うん、そっちは?」

「元気だよ」

元気にしてたかなんて、多分互いに分かってる。

だって高さは違えど同じ土俵の上。風の噂か物好きの噂か、今どうしてるなんてことすぐ情報として手に入るんだから。

テレビを点ければ、彼の姿を見ることだってしばしば。最近は特に多い。

それに比べ、俺はテレビに出るなんてほとんどない。だが色々なバンドのバックで叩いていると、多少なり有名バンドマンともお近づきになれるというもので。

「今何やってんの?」

「レコーディング。あとはドラマの撮影かな」

あの子、キーパーソン勝ち取ったんだよ。俺は只のその同級生。

懐かしむような目でそう告げた彼に、俺は少し微笑んだ。

「そっか、昔から頑張ってたもんな」

あの子――俺たちの中学の同級生は、「女優になるんだ」と言って何度かオーディションを受けていた。

当時は勿論志半ばで挫けてしまうんじゃないかと心配したし、やめようかなと相談されたこともあった。

今でもまだ主役級はとれないみたいだが、徐々に人気は増えてきている。彼女のサバサバした雰囲気、それと色気が魅力なのだろう。

彼は本業はミュージシャンのため、大きな役柄が回ってくることも望むこともない。けれどその容貌や声、ミステリアスな性格も影響してか、俳優としての座を少しずつ作り出していた。

「お前、変わったな」

俺は右手に持った缶のチューハイを流し込んで言った。それに彼はこちらを見て固まる。

だがすぐに同じようにチューハイを飲んで苦笑した。

「お前もな。背はチビちゃんのままだけどさ」

昔のように頭を撫でられる。そんなとこは変わってないんだ。実は癖も抜けていない。

「一人ででっかくなりやがって」

背の話のつもりだった。だけど俺は少し酔ってきていたのか。彼は目を逸らすと「ごめん」と呟いた。

「謝んなって。この対バンだって楽しくやりたいし、な?」

「だな」

昔何度か同じバンドで活動していた。そのとき彼は今のようにボーカルではなくてベースだった。

最後に一緒に活動したバンドも一年ちょっとで解散。彼の脱退ライブなんて今以上に気まずいまま行った。その後メンバーはバラバラになって、一人は細々と歌い続け、一人は皆の前から姿を消し、一人は芸能界で輝ける人になり、一人は音楽業界から抜け出せないままでいた。

あの頃のように喧嘩別れ、音楽性の違いで解散、なんてありきたりな終わり方が嫌でバックミュージシャンになった。小さい頃からやっていたこともあってか、レコーディングはおろか、極々たまに某生放送音楽番組に見切れることも出来た。

その頃には既に、彼はカメラの中心で笑って歌っていたというのに。

「そういや、アイツに会ったんだって?どんなんだった?」

俺と同じように、だが俺と違って専門的な方向に進んだ元メンバーとこの前対バンをした。その話だろう。

「元気にしてたよ。相変わらずだったし。お前のことも話してた」

一番酷く喧嘩したのはこの二人だ。こないだ聞いた妬みの言葉を、彼も想像出来たのだろう。苦虫を噛み潰したような顔で、でも聞いてきた。

「なんだって?」

『なんで売れてんの。信じられない。私はバンド解散してもずっと活動してたのに。ライブ経験だってもっとあったし、積極的なのは私の方。あの日から活動してない彼が上にいて、私はまだライブハウスでやってるなんて悔しい。CD出したのだって私の方が早いのに。専門学校だって行ったし、そもそもベーシストだったのに何でボーカルになってんの』

長々と愚痴られた内容を掻い摘んで伝える。案の定どんどん苦笑いになっていく表情に、俺は申し訳なくなった。

アイツが愚痴ったときに、俺は思わず彼を庇うような発言をした。何年も会わなかったとはいえ、バンドをやった仲には変わりなかった。

『確か、音楽配信は皆が思ってるのが最初じゃないよ。それに、あいつは……』

ベーシストをやめたことは俺も知らなかった。ベース好きなんだって、誰よりも伝わってきた。でも前々から零していたじゃないか、「俺、弾けなくなるかも」って。

やっぱり弾けなくなったんだ、とテレビを見て思った。新しいバンドではセンターにいた。見慣れた場所にはいなかった。それは俺にとって悲しい事実でしかなかったけれど。

「ごめんな、そんな愚痴聞かせて。どうにもならないんだけどさ」

「そりゃそうだろ。でもお前が悪いわけじゃないし」

彼は俺の言葉を聞くと笑った。笑い方も変わらなくて安心した。

「ありがとう、変わんないよね、そういうとこ」

「どんなとこ?」

「俺には優しいとこ」

お前は誰にでも優しいもんな、今だって共演の人老若男女関わらず優しくしてるんだろ?その言葉は無理矢理飲み込んだ。折角戻りつつある空気を悪くしてどうするんだって。

「俺優しいもん」

代わりにおちゃらけてみせる。昔の俺のまま。

「うん、優しいと思う」

そんな真面目っぽい返しも、昔の彼のままだ。

俺たちは、あと数十分お互いの近況を語った。

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