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5.日記

7月15日

 最近、隣に引っ越してきた姉妹は変だ。

 まず姉妹だと言うのに、全く似ていない。姉の方は綺麗だが、吊目気味の目に、日焼けした肌にブラウンのロングヘアーが合っている。それに対して、妹の方は目が大きく、白い肌にプラチナの髪をゆったりと伸ばしゆるやかなウェーブを描いていて、まるで人形の様で可愛い。それに僕と同じくらいなのに、妹の方は学校に行っている様子がない。

お母さんが聞いた話によると、体が弱いかららしい。

 でも僕は知っている。夜、僕が勉強に疲れて窓から外を眺めると、彼女が歩いている事を。

 一体彼女達は、何者なんだろう?僕はすっごく気になっている。

僕はどこかに歩いていくあの子の背中を眺めていて、決めた。丁度、もうすぐ長い休みに入るし、あの姉妹の事を調べるぞ!


7月18日

 今日は学校が休みだった。なので、僕は少女が暮らしている建物の周りをうろうろした。だけど大して変わったものは、何一つなかった。

 学校が休みだったから一日中歩いていたんだけど、謎が深まっただけだった。


7月19日

 今日で学校が終った。僕は学校が午前中だけだったから、午後は暇をしていた。なので、昨日と同じ様に、建物を中心に観察する事にした。ただし今度は僕の家の中で。

 僕は隣に面した窓から、観察をしてみた。すると珍しく、姉妹が揃って朝からどこかに出掛けて行った。僕はこれ以上見ていても分からないと思ったので、家の中でテレビを見ていた。 最近、変死体が多いらしい。お母さんが「最近、ぶっそうね〜」、と言っていた。だけど、僕にはよく分からない。

 一生懸命見張っていたけど、彼女達はなかなか帰らなかった。僕はとても眠くなったし、お母さんが「早く寝なさい」、と言ったから寝る事にした。


7月20日

 今日から学校が長期休みに入った。たくさんの宿題もあるけど、僕はそんな事よりも隣の姉妹の事が気になって仕方がなかった。僕は勇気を出して二人に話しかけてみた。

 二人は、急に話しかけられて驚いている様子だった。それでも女性の方は、すばやく状況を理解したのか答えてくれた。

 「こんにちは」

 少女がとても可愛かったので、僕は少女の顔をまじまじと見てしまった。失礼だったかな。僕はなんとか少女から視線を外し、二人に聞いた。

 「あの、猫を連れているのを見たんだけど。飼っているの?」

 少女は頷いた。僕がじろじろ見ていたのは、気にしていないようだった。 少女の代わりに、姉が少し照れた様子で教えてくれた。

 「ええ。昨日も、捨てられているのを見付けて、可哀想だから拾ってきちゃったの」

 「貴方、動物、好き?」

 妹の方が、僕じっと見つめて問掛けてきたので、思わず頷いた。

 「そう。今度、私達ん家来る?動物がいっぱいいるから」

 本当は大して動物好きじゃあないんだけど、僕は頷いた。この姉妹の暮らしを見てみたかったからだ。

 すると妹の方が微笑んだ。僕はそれを見て可愛い、と思った。

 僕は赤くなってきた顔を誤魔化すためうつ向き加減で、自己紹介した。

 「私は、マリー。この子はアントワネットよ」

 アントワネットは小さな声で「よろしく」、としか言わなかった。後は姉のマリーが話していただけで、彼女は一言も話しかけてくれなかった。僕は話しかけてくれているマリーよりも、何も言わないアントワネットの方が気になった。彼女と少し目が合うだけで、ドキドキする。僕は緊張して話難くなったので、用事があると言って家に帰った。

 僕は家に帰ってからも、ドキドキが止まらなかった。どうしてなんだろう。


7月30日

 数日間、彼女達の事を気にしながらも、家に遊びに行く勇気がなく、窓から隣を見つめるだけだった。姉妹と話をしてから、とうとう一週間以上が経ってしまった。僕はあれ以来、一度も会話をしていない。きっと、あの姉妹は僕が来ないものだと思っているに違いない。

『トントン』

 ドアを叩く音が聞こえた。今、家には僕しかいない。仕方がないから僕は玄関に向かった。

 「こんにちは」

 来たのはアントワネットだった。一体、どうして来たのだろう。彼女は僕をじっと見て、話出した。

 「最近、出かけていたからいなかったんだけど、もしかして来てくれていた?」

 もちろん僕は首を横に振った。

 「なら、良かった。今から、家に来る?」

 僕は頷いた。それを見るなり、アントワネットはすたすたと歩いていった。

 彼女達の家は、とても殺風景だった。机と椅子が置いてあるだけだ。僕はこんなシンプルな家を見た事がないと思った。

 だが、そんな思いは一室に入った途端、打ち砕かれた。アントワネットがリビングだと言った部屋には、数多くのぬいぐるみが置かれていたのだ。

 「ここ、私のお気に入りの場所」

 アントワネットはずっと無表情だったが、微かに笑った。すっごく可愛い!

 しばらくしてドアが開いた。入って来たのは犬を抱えたマリーだった。彼女は僕を見るなり、表情を曇らせる。

 僕に来て欲しくなかったのかなぁ。

 だが、マリーはすぐに笑顔になり僕に話しかけた。

 「よく来てくれたわね。お茶、入れるから待っててくれる?」

 そしてアントワネットを引き連れて部屋を出ていった。


 置いてかれた僕はしばらく部屋にいたが、トイレに行きたくなって部屋を出た。入って来た所に行こうとした時、二人の会話が聞こえてきた。

 「あんな子供からも取るの?」

 「丁度いいと思うけど。どうしていけないの?」

 「だって…まだ子供なのよ」

 「だから?」

 「だからって・・・」

 マリーが、呆気にとられている。

 なんで?僕はもう少し話の内容を良く聞きたいと思い、一歩踏み出したら、彼女達に気付かれた。

 僕を見た二人の態度は違っていた。マリーは明らかに動揺していたが、アントワネットは微かな動揺すら見せない。アントワネットが僕に話しかけてきた。

 「どうしたの?」

 「トイレを借りたくて…」

 僕は平然を装って答えたけど、彼女達には分かっていたのかもしれない。僕が会話を聞いていた事を。

 二人は何も言わず、トイレに案内してくれた。用事を済まし、僕はリビングに戻った。二人は既に紅茶を飲んでいた。アントワネットが僕を見て尋ねた。

 「気に入った?」

 僕は素直に頷いた。

 「うん。また。来てもいい?」

 アントワネットは頷いてくれた。

 「そうね。また来てね。楽しみにしてるから」

 僕は家に帰って思った。「あんな子供からも取るの?」、とはどういう意味なんだろう。彼女達は僕から何を取るつもりなんだろうか。ただ眠る頃には、そんな疑問は消えていた。


8月5日

 最初に彼女達の家を訪れてから、一週間が経っていた。僕は彼女達の家をたびたび訪れた。

 そのうち、彼女が二人とも家を空ける日には、動物達の世話を頼まれ、留守を任された事もあった。そんな時は必ずと言って良いほど、どこからか拾ってきたらしい動物を、彼女達は連れて帰って来ていた。


8月28日

 何度も留守番を頼まれていくうち、僕は彼女達と仲良くなれた気がした。僕の長い休みもまもなく終わりそうなある日。マリーが、僕に言った。

 「私の仕事の関係で、もうすぐ私達引っ越す事が決まったのよ」

 僕はそれを聞いて悲しくなった。でも僕が何を言ったって、彼女達は移動を止めはしないだろう。せめて最後にアントワネットと二人きりで話がしたくなったので、聞いてみた。マリーが言うに、アントワネットはリビングにいるらしい。僕は一人でそこに向かった。

 アントワネットは僕を見て、微笑んだ。

 「もうそろそろ、出るのよ」

 僕はアントワネットの言葉を聞いて、とても悲しくなった。

 あまりにも急すぎる話だった。しかも彼女の話では、出発まであまり時間がないらしい。僕は悲しくなって「そう、なんだ…。急だね」、と言った。

 「言うタイミングが、なかなかなかったから…。ごめんね」

 よく見るとアントワネットが、珍しく悲しそうな顔をしている、気がした。僕はそんな彼女を悲しませないと考えて、わざと明るく振舞った。

 「いいよ。楽しかったから。また、会える?」

 アントワネットに悲しい顔のままで微笑まれ、僕は胸が苦しくなった。アントワネットは首を振った。そしてゆっくり話し始めた。

 「でもね。一つ、方法があるのよ。離れなくて済む方法が」

 僕はそれが何なのか気になった。もしかしたら、前に聞いた二人の会話が関係しているのだろうか。

 「結構前にしてた私とマリーの会話を、聞いていたでしょう?」

 僕は尋ねられたが、答えられなかった。僕が黙っているとアントワネットは一方的に話続けた。

 「あれを聞かれたから、もう来なくなるんじゃないかと思ったの。だけど来てくれていたわね」

 言うなり、アントワネットは僕に手を差し延ばした。僕はどんどん息がしにくくなっていった。立つ事も出来なくなった時、ドアが開きマリーが入って来た。

 「何をやってるの!止めなさい!」

 マリーが、アント、ワネットに向、かって、行、く…あ…れ…な、んだか、ち、から、はい、ら、な…

 アントワネットは僕を見たまま、マリーを見ようともしない。

 「いいでしょ。この子も望んでいるのよ」

 「そんなわけないでしょ!」

 アントワネットは冷淡な声をしていた。だけど僕は一瞬だが見た。アントワネットが辛そうな顔をしているのを。

 「それに、もう遅いわ」

 体が床に崩れ落ちて行くのを感じたのを最後に、僕の意識はなくなった。


×月○日

 僕は目を覚ました。

 ここは、どこなんだろう。

 辺りを見回して、僕はアントワネットの姿を確認した。彼女は鞄に荷物を詰め込んでいた。後ろでマリーがブツブツ言いながら、僕の体を鞄に詰めている。

 僕は、どうしたんだろう?

 しばらくして僕は、自分が人形になった事に気付いた。こういう事だったんだ。僕はどういうわけか分からないけど、人形になったんだ。

 それでも僕は嬉しかった。だって、アントワネットと離れずに済むんだから…


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