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1.覚醒

 ここはどこ?私は誰?


 少女は目を開けた。そこは暗闇で何も見えなかった。

 しばらくして声が聞こえた。

 「私は君に命を吹き込んだんだ」

 少女は思った。どうして?

 「さぁ、話してごらん。君は話せるし、考える事も出来るよ」

 少女は口を開けた。今まで開かなかった口が開いた。そして苦労しながらも、話し始めた。

 「どうして?私は何者なの?」

 声は彼女の質問に答えなかった。そして、一方的に語りかけた。

 「それは君が自分の力で見つければいい。これから何をするか、自分の名前、全て自分で決めなさい」

 少女は声の言う意味が分からず、何もしなかった。声はそんな少女を見て楽しんでいるかのように、しばし間を空けて話しかけた。

 「縁があったら、また会う事もあるかもね」

 その言葉を最後に、声は遠ざかっていき、やがて聞こえなくなった。

 声が聞こえなくなって、少女は立とうとした。だが、彼女は今まで立った事がないので、すぐに座り込んでしまった。

 数十分かけて彼女は立って、部屋から出た。そこは人々が忙しそうに歩き回る所だった。

 少女はゆっくりと歩き出した。目的がなかったので、好きな方角へ足を向けた。

 少女がしばらく歩いていると、声をかけられた。

 「あなた、名前は何?」

 少女は分からなかったので、首を振った。声をかけた女性はにっこりと笑った。

 「やっぱりね。あなたが来た所に案内して。説明するから」

 少女は何も考えず、歩いた道を戻った。少女の歩みはたどたどしかったが、声を掛けてきた女性は何も言わなかった。



 二人は少女が目覚めた場所へ着いた。そこは沢山の人形が置かれていて、それ以外は何もなかった。女性は部屋を見回して言った。

 「何も変わってないわ。懐かしいわね〜」

 そして彼女は、ぼんやりしている少女を見て言った。

 「私もここから始まったのよ」

 少女は彼女の言った事が分からなかった。


 始まった?何が?


 「まずは、これを見て」

 彼女は、何かを少女に投げた。

 少女は受け取れず、下に落としてしまった。そして床に落ちた物を屈んで拾い上げた。それは腕だった。


 これは、腕?


 彼女を見ると、さっきまであった右腕がない。


 もしかして、これは彼女の?


 少女は何も言わなかったが、彼女は少女の考えが分かったようだ。ぼんやりと持っている腕を見つめる少女に微笑んで話しかけた。

 「これで判ったかしら。私も貴方も、実は人形なのよ。あなたと同じ、ね」

 少女には訳が分からなかった。彼女は無表情のまま、答えた。

 「分からない。全然、分からない」

 連れてきた女性はにっこりと笑った。

 「私もそうよ。始めは何も分からなかった」

 そして彼女は今までの経緯を話し始めた。

 「知らない声から『これからどうするか、自分で決めろ』、と言われて。それから幾日も、ここでじっとしていたわ。何も出来なかった。何をしたらいいのか、分からなかった」

 そして彼女は己の両肩を抱いた。その両肩は僅かながら震えていた。

 「周りの声に耳を澄ませ、状況を理解しようと必死だったわ」

 彼女は少女の持つ腕を受け取り、元々あった所にはめた。

 少女は彼女が腕をはめる所を見ながら思った。私も、あれ、できるの?

 彼女はクスッと笑った。

 「出来るけど、痛いわよ」

 少女は相変わらず無表情だったが尋ねた。

 「私の考えた事、分かったの?」

 彼女は「たまに、だけどね」、と答えた。

 「耳を澄ませて、状況を理解しようとしているうちに身についたのよ」

 そして名前を名乗った。

 「私はマリーよ。ここでは名前を名乗らないといけないみたいなの。あなたの名前も決めなくちゃね」

 少女は言われて何か言おうとした。だが、言葉が見つからなかった。それでも彼女は少女が何を言いたいのか、分かったようだ。

 「すぐに決めなくてもいいわ。ゆっくり、考えましょう。外に出てみない?」

 少女は差し出された手を、おそるおそる握り返した。

 「この世界の事を貴方がわかるまで、私は側にいるからね」

 「ありが、とう」



 そして少女はマリーと一緒に外に出た。人通りが多く、少女は軽い眩暈を覚えた。マリーは少女の様子に気付いて、喫茶店を指差した。

 「休憩、する?」

 少女はマリーが指差した先が何なのか、分からなかった。それでも付いて行くことにした。

 「いらっしゃいませ」

 少女は、マリーの示す通りに彼女の向かいに座った。

 「オドオドしなくてもいいわよ」

 マリーに言われたが、少女は辺りを見回すのをやめなかった。ウエイトレスがメニューを片手に近付いた。

 「ご注文は?」

 マリーはメニューも見ずに「紅茶を二つ」、と答えた。そして少女に話しかける。

 「本当は私達、人形は飲み食いする必要はないんだけどね。ここの紅茶は美味しいわよ」

 しばらくして、ウエイトレスが紅茶を持ってきた。少女は彼女をじっと見た。マリーは少女に尋ねた。

 「さっきのウエイトレスがどうかしたの?」

 少女は問われて途切れ途切れ答えた。

 「あの人、なんていうか、影が、暗過ぎるって言うのかな。重くて、深い、影を感じる」

 マリーはよく分からなかったようで、出てきた紅茶を飲んだ。少女もマリーに習って飲もうとしたが、苦くて飲めなかった。

 「苦い」

 マリーは砂糖を差し出した。

 少女は、戸惑っている様だ。マリーはまず自分の紅茶に砂糖を入れる仕草をしてみせた。少女はそれを真似して、砂糖を入れた。そして恐る恐る一口飲んだ。

 「甘い」

 少女は声をあげた。砂糖を入れた紅茶は、とても甘かった。ただそれだけの事に、少女は嬉しくなった。

 数十分が立ち、二人は喫茶店から出ていった。



 少女は忙しない人込みに多少は慣れたが、それでも人を避けて歩くのが大変そうだった。しまいに少女は誰かにぶつかってしまった。

 「あの、ごめんなさい」

 少女は慌てて謝ったのだが、腕を掴まれてしまった。

 少女は掴まれて腕を、そしてその先をじっと見た。掴んでいる男性は喫茶店で見たウエイトレスと同様、影が重く、深く見える。

 「お前、どこ目ェつけとんのや」

 そして少女は路地裏に連れて行かれた。マリーは少女を止めようとしたが、遅かった。

 少女は腕を掴まれたままだったが、不思議と痛みを感じなかった。それよりも男性の重くて深い影に恐怖を感じた。

 だが、男性は少女の恐怖を読み取れなかったらしい。少女の感情は表情には現れてなく、傍目からは無表情に見えるからだ。

 「お前、ガン見すんじゃねぇよ」

 男性は言うなり殴りかかろうとしてきた。

 少女はその時、声が聞こえた気がした。

 『手を差し出して』

 少女は言われた通り、手を差し出した。

 その瞬間、男性から影が出てきて、少女の手の中に収まった。男性はがくり、と倒れてしまった。それ以降、動こうともしない。

 少女は恐怖のため、その場を動けなかった。

 少女がじっとしていると、マリーがやってきた。倒れた男性を見るなり「どうしたの?」、と尋ねてくる。

 マリーは少女の持つ影を見た。

 「もしかしたら、それがあなたの能力かもね。それをどうしたいの?」

 少女は分からなかったので、首を横に振った。マリーはその仕草を見て「じゃあ、あの部屋に戻ってもいいかな?」、と尋ねた。

 少女は微かに頷いた。

 「いい。どうして?」

 少女は尋ねたが、マリーは答えなかった。



 少女とマリーが初めて目覚めた部屋に着いた。そこには幾つかの人形が置かれていた。

 マリーはその中からアライグマのぬいぐるみを持って、少女の元へ近寄った。そして少女にぬいぐるみを見せて言った。

 「その影は、このぬいぐるみを動かせるように出来るはずよ。この子に命を吹き込んで欲しいの。孤独だった頃の、私の唯一の友達だったから」

 少女はマリーとぬいぐるみを交互に見た。

 「どうしたら、いいの?」

 マリーは「分からないけど」、と言った。

 「近づければ、出来ると思うわ。私達が動いているんだもの。このぬいぐるみも、きっと動く」

 少女はマリーが持つ、ぬいぐるみに自らの持つ影を近付けた。その途端、影は少しずつ消え、ぬいぐるみに吸収されていった。

 マリーはぬいぐるみを地面に置いた。それは微かに動いた。少女はその様子を見て、微笑んだ。マリーは少女の顔を見た。常に無表情だった少女の顔には笑みが広がっていた。

 「良かった」

 マリーは少女の肩越しに、ぬいぐるみが動き出したのを確認した。

 そしてマリーは少女の顔をじっと見て「今、何か感じている?」、と尋ねた。少女はマリーに微笑みを返した。

 「なんていうか、暖かい感じがする」

 「それはね、嬉しいからよ。あなた、笑顔が可愛いわね」

 少女はしばらく考えていたが、マリーに話始めた。

 「私、これから何をするか、決めたわ。私達みたいな、人形を、創るの」

 「そう」

 「うん」

 少女は、置かれていた人形達を見回した。

 だが彼女は気付かなかった、マリーの笑顔に隠された、本当の意味を・・・


 そして彼女らは二人を見る視線に気づくこともなかった。


ホラー好きなのでホラーにしたかったんですが、全然ホラーじゃないですね。お気に召さなかったらすみません。

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