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第4章:第93話:三連星の衝撃と死の宣告

第4章:第93話:三連星の衝撃と死の宣告


「……ミーシャ、頼む! 少しの間だけトロルと鳥を引きつけてくれッ!」


シンジの短く、しかし切実な叫びが、赤いトロルの咆哮を突き抜けた。


その言葉だけで、ミーシャはすべてを理解した。


彼女は滴る汗を拭うこともせず、自らの命を天秤に乗せるように一歩前へ踏み出す。


「任せなさい! こっちよ、この図体ばっかりの赤ダルマ! それに、そこらへんをチョロチョロしてる鳥も!!まとめて私の相手をしなさいッ!」


ミーシャが棘の鞭を猛然と振り回し、トロルと鳥の注意を強引に引きつける。


巨大な棍棒が彼女の頭上をかすめ、小鳥が放つ風の刃が彼女の革の鎧を切り裂くが、ミーシャは一歩も引かない。その献身的な姿に、シンジの胸に熱い火が灯った。



今だ…!


シンジはフィリアとセシリアに目で合図をし、腰の後ろから、あの武骨な木のブーメランを逆手で引き抜いた。


「行くぞッ! ジェット、ストリーム……アタック!!」


シンジの咆哮と共に、対空スキル『ウイングブロウ』の青白い光を纏ったブーメランが放たれた。


それは凄まじい風切り音を立て、天井に張り付いた目玉の魔物へと肉薄する。



だが、その一撃はあまりにも大袈裟で、直線的だった。


目玉の魔物はその狡猾な知能で、シンジの投擲軌道を瞬時に見切り、嘲笑うように横へと大きく身を捩って回避した。


――だが、それこそがシンジの描いた『詰み』の盤面への一歩目だった。



「……逃がさないわッ!」


目玉が逃げた先、そこにはセシリアが事前に練り上げていた魔法が待機していた。


「聖なる風よ、敵の退路を断てッ!」


彼女の放った鋭い突風が、回避した目玉の周囲を檻のように包囲し、その機動を強引に制限する。


空中で姿勢を崩し、もがく目玉の魔物。その完全な無防備を、フィリアが逃すはずはなかった。



「……貫けッ!」



フィリアが渾身の力で引き絞ったエルフの弓から、精密射撃の矢が放たれた。


空気を裂く一閃。


それはセシリアの風によって固定された目玉の中央部へと、深々と突き刺さった。



「ギョ……アッ!?」



鈍い音と共に、粘液が飛び散る。


目玉の魔物はその一撃で致命傷を負い、既に絶命していた。


死に体となって岩肌から剥がれ落ちる目玉の魔物へ、空中で大きく弧を描き、戻ってきたブーメランが追撃として襲いかかった。


くるくると高速回転しながら戻ってきたブーメランが、ダメ押しと言わんばかりに目玉の中央へ真っ向から突き刺さる。



ズガアァァァンッ!!



凄まじい衝撃音と共に、天井を支配していた不気味な『視線』が粉砕され、黒い粘液が雨のように降り注いだ。



しかし、その崩壊の瞬間、空を舞う白い小鳥が絶望的なまでの高音で鳴いた。



「チチチチチッ!!」



それは、死の宣告だった。


小鳥の喉が限界まで膨らみ、不可視の波動が広間全体を包み込む。


ミレーユが恐れていた、回避不能の『死の呪文』。

四人の心臓が、冷たい氷の手に握られたような感覚に襲われる。世界が、一瞬だけ音を失った。


……シンジ、無事。


冷や汗が流れるが、鼓動は止まっていない。



……ミーシャ、無事。


荒い息を吐きながらも、獲物を睨みつけている。



……フィリア、無事。


震える手で次の矢を番えている。


だが――。



パキーンッ!!



静寂を切り裂く、乾いた破壊音。


セシリアの懐から、眩い光の破片が飛び散った。



彼女がシンジから託された『命の石』が、真っ二つに割れ、粉々に砕け散ったのだ。



「あ……あ……っ」


セシリアは青ざめた顔で自分の胸元を押さえた。


石が、彼女の命の代わりに死の審判を引き受け、身代わりとなって消滅したのだ。



「セシリア! 無事かッ!?」


「は、はい……! 石が、守ってくれました……!」


恐怖に震える彼女の声を聞き、シンジの瞳に冷徹な殺意が宿った。


目玉を失い、視界を共有できなくなった小鳥は、かつてないパニックに陥り、空中で羽ばたきを乱している。



「ミーシャ、今だッ!」


「わかってるわ…石つぶて!!」


ミーシャが放った礫は、小鳥を倒すためのものではない。


その視線を、注意を、強引に自分へと向けさせるための牽制だ。

案の定、混乱した小鳥は迫りくる礫を避けるために、無意識に姿勢を翻した。



その瞬間、小鳥の視界からシンジの姿が消えた。


音もなく、気配を殺し、死角へ回り込んでいたシンジが、跳躍する。


「……チェックメイトだ」


冷たい囁きと共に、シンジの影縫いの短剣が、白い小鳥の細い首を正確に捉えた。 逆手に握られた刃が、一気に真横へと一閃される。


鮮血が舞い、あの愛くるしくも残酷な頭部が、宙を舞った。

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