第4章:第90話:命の石と未知なる武器
第4章:第90話:命の石と未知なる武器
巨大な骸骨を打ち倒した後の広間は、嫌な静寂に包まれていた。
崩れ落ちた骨の山から視線を外したミーシャが、部屋の隅、埃を被った瓦礫の影にひっそりと鎮座する古びた宝箱を見つけ、鋭く声を上げた。
「シンジ! あれ見て!」
「……待て、罠の可能性がある」
シンジは短剣の先で宝箱の周囲を慎重に探り、不可視の糸や加重式のスイッチがないことを確かめてから、ゆっくりと、軋む蓋を押し上げた。
中に入っていたのは、一本の武骨な『木のブーメラン』と、鈍い光を放つ不思議な『石』だった。
ミーシャがその石を手に取り、商人の目利きで神経を研ぎ澄ませて鑑定する。
「……これは『命の石』ね。持ち主を一度だけ、死の呪文から身代わりになって守ってくれるみたいよ」
その言葉を聞いた瞬間、シンジの脳裏にガストンたちの凄惨な告白が蘇った。
「……じゃあセシリア、お前が持っててくれ」
「えっ……!? で、でも……わ、私で良いんですか……?」
唐突に名指しされ、セシリアは肩を跳ねさせてビクッと身を竦めた。
その激しい動きに呼応して、法衣の下の豊かな胸が、重量感を持って大きく揺れる。
シンジは、その抗い難い揺れに思わず目を引きつけられ、一瞬だけ視線が泳いだが、すぐに表情を引き締め、真面目な声で言葉を継いだ。
「……当たり前だ。このパーティの要は、回復を担うセシリア、お前だからな。お前が倒れたら、俺たちの生存率はゼロになる」
「……は、はいっ! 大切にします……!」
セシリアは顔を真っ赤に染めながらも、託された石を祈るように両手で包み込んだ。
シンジは次に、もう一つのアイテムである木のブーメランを手に取った。
使い慣れた短剣とは勝手が違う、独特な反りと木の質感。彼は一度、ミーシャ、フィリア、そしてセシリアの三人の顔をゆっくりと見回した。
誰がこれを持つのが最も効果的か。
だが、一撃で獲物を仕留める正確さと、投げた後の隙を埋められる身のこなしが必要だ…
「……よし、これは俺が持っておこう。何かの役に立つはずだ」
シンジはそう決めると、ブーメランを腰のベルトの後ろへ、いつでも引き抜ける角度で差し込み、その感触を身体に馴染ませた。
いよいよ、最深部へと続く最後の扉が目の前に立ちはだかる。
シンジは物音を殺して扉に近づき、その隙間に全ての神経を集中させた。
(……っ、居る!)
扉の向こうから漏れ出る、巨大な怪物の重苦しい息遣い。
シンジは鋭い眼光で、三人に「準備しろ」と目で合図を飛ばした。 四人は自然と円を描くように固まり、声を極限まで潜めて最後の相談を始めた。
「いいか、最終確認だ。第一目標はトロルじゃない。ミレーユたちが言っていた、例の『鳥』だ。あいつを叩き落とすまで、トロルは無視していい。どんな手段を使ってでも、全力で例の鳥を仕留めるぞ」
シンジの低い声が、仲間の鼓膜を震わせる。
「MPの出し惜しみも無しだ。わかったか?」
「ええ、わかったわ! 最高の商談にしてあげる!」
「精霊の加護を……全力で射抜きます!」
「はい、神様のご加護があらんことを……!」
三人の返答に、迷いはなかった。
シンジは深く、長く息を吸い込むと、円の中心に自らの指を強く差し出した。
「……よし。生きて帰るぞ。――御安全に!」
「「「御安全に!!」」」
三人の復唱が重なり、湿った空気の広間に力強く響き渡った。 シンジは短剣を抜き放ち、死の気配が渦巻く扉へと手をかけた。




