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第4章:第87話:蘇る勇気と焚き火の宴

第4章:第87話:蘇る勇気と焚き火の宴


砦の広間に、温かなスープの匂いが立ち込めていた。 シンジ、ミーシャ、セシリア、そして神父の四人は、岩を椅子代わりにして、静かに食事を摂っていた。 だが、フィリアだけはまだ、自分に与えられた役割を諦めてはいなかった。


「……もう一度……っ! 精霊様、お願いします……!『ソウル・リバイブ』!!」


幾度目か分からない、魂を削るような祈りが捧げられた、その時だった。 ガタリ、と重い木の蓋が内側から動く音が、静まり返った広間に響いた。


「……っ!? シンジ、見て!」


ミーシャがスープの器を持ったまま立ち上がる。 三つの棺桶のうちの一つから、蒼白な顔をした男が、夢遊病者のように「むくり」と上半身を起こしたのだ。


「……ここは……。俺は、生きてるのか……?」


「成功……しました……。よかった……っ!」


フィリアはその場に崩れ落ちそうになりながらも、歓喜の声を上げた。


男は以前は重厚な鎧を纏っていたであろう立派な体格をしていたが、今は鎧も武器も剥ぎ取られ、薄汚れた普通の服を着ているだけだった。

この世界では、死後しばらくすれば誰もが等しく棺桶に収容される。男にとって、自分がその中にいた事実は、死を受け入れた瞬間に確定していた「常識」であり、驚くべきは今自分がこうして呼吸をしていることだった。


フィリアはフラフラとする彼の手を引き、自らも足を引きずりながら、あの青白く光る回復ポイントへと導いた。


「さあ、光に触れてください……。精霊様の癒やしを……」


戦士が光に包まれ、その肌に血色が戻っていく。フィリアもまた自らの魔力を全快させると、二人は再び、焚き火を囲む輪へと戻ってきた。


今は六人となった一行が、同じ鍋のスープを分け合う。

温かい液体が喉を通るたび、男の瞳にようやく生気が宿り始めた。


「……助かった。俺はサカデウスの冒険者ギルドから派遣された討伐隊の一員、重戦士のガストンだ。……不甲斐ない。俺たちは、この砦の奥にいる『赤いトロル』と対峙したんだ」


ガストンは悔しげに拳を握りしめ、記憶を辿る。


「あいつは……赤いトロルは、破壊力抜群の木の太い棍棒を振り回してきやがった。……だが、俺たちもやられてばかりじゃなかった。必死に食い下がって、なんとか善戦していたと思うんだが……クソッ。俺は、あそこで死んだんだ」


「……一度、死んだのか」


シンジが眉をひそめ、言葉を失う。


「ああ、間違いない。死んだからこそ、俺はあの箱の中にいたんだ。だが……どうにも納得がいかねえ。善戦していたはずなのに、なぜあんなにあっさり死んだのか……。全貌は、あとの二人が目を覚ましてから話させてくれ。俺一人じゃ、何が起きたのか整理がつかねえんだ」


シンジは彼に新しいスープを差し出し、静かに、だが決意を込めて告げた。


「わかりました。まずは食べて体力を戻してください。……仲間の皆さんも、必ず引き戻します」


魔物の砦のど真ん中で、湯気を上げるスープを囲む六人。 死という絶対の理から引き戻された命が、反撃の灯火を静かに灯し始めていた。

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