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第4章:第80話:二つの選択肢と懸賞金

第4章:第80話:二つの選択肢と懸賞金


サカデウスの宿屋に併設された酒場は、夜が深まるにつれてさらに熱気を増していた。 運ばれてきた豪快な肉料理の香りに包まれながら、ミーシャが卓上に使い古された地図を広げる。


「実はね、首都のマルシェリアに行こうと思ったら、この先にある大きな川を越えなくちゃいけないんだけど……。そこに掛かっている大きな橋、普段ならそこを通って真っ直ぐ行けるのよ」


ミーシャは地図の一点を指先でトントンと叩いた。


「でも、最近そこに魔物が頻繁に現れて、道を封鎖しちゃってるみたいなの。完全に根城にされちゃってるって話よ」


「橋が通れないとなると……かなりの遠回りになるのか?」


シンジがエールを飲み干しながら尋ねる。


「ええ。もう一つのルートは、ここから東に向かって、山岳都市タカマッツォを経由する山越えね。でも、あそこは足場も悪いし、馬車で行くにはかなりの時間がかかるわ。……どうする? 危険を承知で橋を強行突破するか、時間をかけて山道を選ぶか」


ミーシャは一度言葉を切り、3人の顔を見回した。 だが、そこでもう一言、商売人の鋭い光を瞳に宿して付け加えた。


「……あ、そうそう。言い忘れてたけど。ギルドの話じゃ、その橋を陣取ってる魔物たちのボスに、かなりの額の『懸賞金』がかけられてるらしいわよ?」


「懸賞金、か……」


シンジは少し身を乗り出した。


「魅力的な響きだけど……俺たちで大丈夫かな。そのボス、相当強いんだろ?」


シンジの慎重な問いに、ミーシャの表情が少しだけ曇る。


「そうね。実は、既に何組かの冒険者たちがギルドの依頼を受けて、その橋に向かったらしいわ。……でも、それからもう一週間、誰一人戻ってきていないそうなのよ」


「一週間も……?」 フィリアが顔を強張らせ、セシリアは小さく十字を切った。


「どんなボスなんだ?」


シンジの問いに、ミーシャは声を潜めて答えた。


「……ギルドの情報によると、鬼のような形相をした『赤いトロル』らしいわ。通常のトロルとは比較にならない怪力と、傷を即座に癒やす再生能力を持っている……まさに橋の番人ね」


赤いトロル。 その名の響きに、4人の間に重苦しい沈黙が流れた。 だが、ミーシャはわざと明るく振る舞うように、空になったジョッキをテーブルに置いた。


「ま、これ以上の相談は明日にしましょ。今はまず、この美味しいご飯を片付けちゃうのが先決よ!」


「そうですね……。しっかり食べないと、力も出ませんから」


セシリアも頷き、残っていたサカデウス特産の煮込み料理を口に運ぶ。 シンジたちは、赤いトロルへの不安を一度心の奥に押し込み、運ばれてきた大皿の料理をすべて平らげた。満腹感とエールの酔いが回る頃には、先ほどまでの張り詰めた空気も少しだけ和らいでいた。


「ごちそうさま。……よし、じゃあお風呂にしましょうか」


ミーシャの言葉に促され、4人は酒場を後にして公共の銭湯で旅の汚れを流した。


そして、フィリアが確保した4人部屋へと戻ってくる。 湯上がりの火照った体には、サカデウスの夜風が心地よく、4人はそれぞれラフな寝間着姿で眠りの準備を始める。


「ふぅ……。やっぱり広いお風呂は気持ち良かったな」


シンジはそう呟くと、特に深く考えず、いつもの癖で履いていたズボンを脱ぎ捨てた。 シャツ一枚に、下着のパンツ一丁というあまりにも無防備な姿。


「……っ!? ちょっ……ちょっと、シンジさん!?」


「シ、シンジさん! あなた、自分が今どんな格好してるか分かってるんですか!?」


隣で髪を整えていたセシリアとフィリアが、同時に声を裏返して顔を真っ赤にした。 二人の視線は、シンジの逞しい脚や、隠しきれない男としての輪郭に釘付けになり、慌てて手で目を覆うが、指の隙間からはしっかりとその姿を覗き見てしまっている。


「え? ……あ、悪い。つい、いつもの癖で……」


シンジが頭を掻きながら恐縮していると、エールでいい具合に酔っ払ったミーシャが、ベッドに寝そべりながらニヤニヤと笑い声を上げた。


「あら、いいじゃない。威勢がいいわねぇ、シンジ……。そんな格好で、今夜は私たち『3人』の相手でもしてくれるつもり?」


「……っ!?」


その爆弾発言に、部屋の空気は一気に沸騰した。


「……えっ、そ、そうなの……?」


「……相手……って、シンジさん……?」


フィリアとセシリアは、ミーシャの冗談を真に受けたのか、さらに顔を赤くして、もはや湯気の立ちそうな表情でシンジを凝視する。


「な、何言ってんだよミーシャ! 酔いすぎだろ!」


シンジが必死に否定するが、狭い4人部屋に満ちた甘く気まずい沈熱は、なかなか収まりそうになかった。

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