第4章:第77話:夕暮れの晩餐
第4章:第77話:夕暮れの晩餐
西の空がオレンジ色に染まり、街道沿いの少し開けた場所に、4人は夜営の準備を整えていた。
停められた馬車の傍らで、シンジは愛馬のシンボリルドルフに干し草と水を与えていた。
「お疲れ、ルドルフ。今日は大変だったな……」
ボロボロになったピンクの皮鎧のまま、シンジは労うようにその首筋を撫でる。
一方、馬車の荷台では、ミーシャが真剣な表情で革袋を広げていた。
「ええっと、これが今日の戦利品で……。ふむふむ、あんなにいた割には、これくらいなのね」
彼女は指先を器用に動かしながら、本日の戦闘の成果であるゴールドの計算に余念がない。
少し離れた場所では、石を組んだ簡易的なコンロに火が灯されていた。 セシリアはシスター服の上からエプロンをきゅっと締め、手際よく木製のボウルや鍋を扱っている。その横では、フィリアが慣れない手つきで野菜を切るのを手伝っていた。
「……えっ、セシリアさん。それ、ただの乾燥野菜と塩漬け肉ですよね? なんでそんなに美味しそうな香りがしてくるんですか……?」
フィリアが驚きの声を上げる。 普通の、いつも通りの食材のはずなのに、セシリアが魔法のような手さばきでスパイスを振り、スープをかき混ぜるたびに、街道には食欲をそそる芳醇な香りが漂い始めていた。
「ふふ、ちょっとしたコツですよ。修道院では、限られた食材で皆の胃袋を満たさなければなりませんでしたから」
「凄い……。今度、私にも教えてください!」
2人は楽しげに質問を交わし、会話を弾ませながら、あっという間に見事な料理を完成させていった。
「シンジさーん! ミーシャさーん! ご飯、できましたよー!」
フィリアの透き通った声が、夕闇が迫る街道に響く。 呼び寄せられたシンジとミーシャは、並べられた料理を見て、同時に目を丸くした。
「えっ……? なにこれ、凄いんだけど……。これ、いつもの材料だよな?」
「嘘でしょ、この豪華な見た目……。セシリア、貴女どこでそんなスキルを……」
驚愕する2人を前に、フィリアは腰に手を当て、まるで見事な成果を上げたのが自分であるかのように、得意げに胸を張った。
「へへーん! 凄いでしょ? これ、全部セシリアさんが作ったのよ!」
その誇らしげな笑顔に、セシリアは少し照れくさそうに微笑み、4人の穏やかな夕食が始まった。 だが、温かい夕食を口に運びながら、いつしか話題は今日の戦闘の反省会へと移っていた。
「……いい? まず第一に、今日みたいなヤバい状況になったら、MPを出し惜しみしないこと! 命がなくなったら、溜め込んだ魔力なんて何の意味もないんだから。全力を出すタイミングを間違えないで」
ミーシャが木のスプーンを振り回しながら、真剣な表情で釘を刺す。商人の彼女にとって、資源の使い所を誤るのは死活問題なのだ。
「それから、各々の備えも必要ね」
フィリアが頷き、自分の荷物を確認しながら言葉を継いだ。
「薬草と、今回役立った眠り覚ましの葉……。全員が最低限、自分の分は手持ちで持っておくこと。誰かが動けなくなった時に、他の誰かがすぐ対処できるようにね」
2人の厳しい、けれど愛のある指摘に、セシリアは少し俯きながら、消え入りそうな声でポツリと言った。
「……あとは、パニックに……ならないこと、です。私が取り乱して、皆さんの足を引っ張ってしまいましたから……」
焚き火に照らされた彼女の横顔には、今日一日の反省が色濃くにじんでいた。
(……ああ、なんだか懐かしいな)
そんな3人のやり取りを眺めながら、シンジはふと、元の世界での会社員時代を思い出していた。会議室に集まり、プロジェクトの問題点を洗い出し、一つずつ解決策を積み上げていったあのミーティング。
(……こうして話し合って、一つずつ皆で問題点をなくしていけば、チームとして、会社として、さらに良い結果がついてくるんだよなぁ。冒険も、仕事も、結局は同じなんだ……)
かつての社会人としての感覚がシンジの中に蘇り、彼はどこか感慨深げに頷いていた。 しかし、その思索を打ち破ったのは、ミーシャの鋭い一喝だった。
「――ちょっと、シンジ! 聞いてるの!? で、アンタはとにかく、絶対に寝ちゃダメよ!! 分かった!?」
「あ、あいたっ! 分かってる、分かってるってば!」
ミーシャに指を差されて怒られ、シンジは慌てて縮こまる。 4人の間には、今日までよりも少しだけ強固になった絆の笑い声が、夜の帳に響くのだった。




