第4章:第73話:深き眠りと、残された二人
第4章:第73話:深き眠りと、残された二人
「……っ、しつこい連中ね! 街に着く前に鞭がボロボロになっちゃうわ!」
街道のど真ん中、馬車を降りて円陣を組む四人の頭上を、無数の羽音が覆い尽くしていた。 鋭い嘴と虹色の翼を持つ鳥の魔物――「スリーピー・クロウ」の群れだ。
ミーシャは鋭い唸りを上げる棘の鞭を振るい、空中の魔物を次々と叩き落としていく。その隣では、シンジが「影縫いの短剣」を逆手に構え、ピンク色の皮鎧を躍動させていた。
「一匹一匹は大したことねえけど、キリがねえな! どんどん仲間を呼びやがる!」
シンジが短剣を突き出し、急降下してきた一羽を仕留める。だが、一羽が地に落ちる間に、さらに三羽が空の彼方から飛来し、群れはさらに巨大な渦となっていく。
「シンジ、後ろよ! ――っ、いけない、光の粉が……!」
ミーシャが叫んだ瞬間、空を舞う鳥たちが一斉に激しく羽ばたいた。 辺り一面に、キラキラと輝く微細な鱗粉が、雪のように降り注ぐ。
「……あ……くそ、身体が……急に……」
シンジの視界が、ぐにゃりと歪んだ。強烈な睡魔が泥のように脳を侵食していく。影縫いの短剣を握る指先から力が抜け、彼はその場に膝をついた。
「シンジ……!? 嫌だわ、私まで……眠気が……」
棘の鞭を構えていたミーシャの腕も、力なく垂れ下がる。二人は抗う術もなく、街道の石畳の上に折り重なるようにして、深い眠りに落ちてしまった。
「シンジさん!? ミーシャさん! 起きてくださいっ!」
フィリアが弓を番えながら叫ぶが、二人はピクリとも動かない。前衛の二人を失ったことで、鳥の群れは勝ち誇ったように鳴き声を上げ、残された二人の少女へと標的を絞った。
「ど、どうしましょうフィリアさん! 眠っちゃいました! 二人とも、こんなところで無防備に寝ちゃうなんて……っ! もし今、この鳥たちが服の中に潜り込んで、あんなところやこんなところを啄んだら……っ。そ、それを見てる私まで、変な気分に……じゃなくて! 助けないと、食べられちゃいますっ!」
「セシリアさん、妄想を止めて! 攻撃魔法を使って!」
フィリアが必死に矢を放ち、シンジたちの体に鳥たちが触れないよう牽制する。だが、多勢に無勢だ。
「わ、わかってます……! で、でも……上手くいくかどうか……っ。えいっ! 吹き荒れてくださいっ!」
セシリアが震える手で杖を掲げ、祈りを捧げる。 すると、彼女を中心にして鋭い「風の渦」が巻き起こった。範囲内にいた鳥たちが風の刃に巻き込まれ、まとめて弾き飛ばされる。
「……っ、やった! 当たりました!」
だが、セシリアが放ったのは、あくまで一方向への範囲魔法だ。 全方位を囲む無数の群れを完全に追い払うには至らず、むしろ仲間を傷つけられた鳥たちはさらに逆上し、より激しい勢いで彼女たちに襲いかかろうとしていた。




