第4章:第71話:旅立ちの朝と、二つのメロン
第4章:第71話:旅立ちの朝と、二つのメロン
翌朝、教会の前に停まった荷馬車は、朝日を浴びてキラキラと輝いていた。 御者台にはすでにミーシャが座り、手綱を握って出発の準備を整えている。シンジはその傍らで、神父と向き合っていた。
「シンジさん、改めて……娘をよろしくお願いします。あの子は世間知らずで、ご迷惑をかけることもあるかと思いますが……」
「任せてください、神父さん。大事なお嬢さんだ、無事に送り届けますよ」
シンジが力強く頷くと、神父の目はみるみるうちに潤んでいった。 そこへ、フィリアに付き添われたセシリアが、鼻を赤くして歩み寄ってくる。
「お、お父さん……っ。わたし……今度は、今度は挫けないで、立派な一人前の冒険者として……頑張ってくるからっ」
「セシリア……ああ、頑張っておいで。お前なら大丈夫だ」
感極まった二人は、どちらからともなく抱き合った。神父はもらい泣きしながら、娘の柔らかな頭を何度も優しく撫でる。 その光景を、シンジは少し眩しそうに見守り、フィリアは優しくセシリアの背中に手を添えていた。
「さあ、行きましょうか」
フィリアに手を引かれ、セシリアがおぼつかない足取りで、昨日シンジが作ったばかりのステップを登って荷台へと乗り込む。最後にシンジが御者台へと飛び乗り、軽く手綱を振った。
「じゃあ、行ってくるよ!」
馬車がゆっくりと走り出す。遠ざかる神父の姿が見えなくなるまで、セシリアは何度も何度も手を振り続けていた。
村の境界を抜け、街道へと出た頃。 御者台のミーシャが、荷台のセシリアへ向かって声をかけた。
「さて、改めて自己紹介しておきましょうか。私はミーシャ、商人よ。今回の旅の雇い主だと思ってちょうだい」
「わ、私はフィリアです。エルフの狩人をしています。よろしくお願いしますね、セシリアさん」
セシリアは、二人の美少女に圧倒されながらも、小さな声で応えた。
「よ、よろしくお願いします……。わ、私は……その、僧侶ですけど……。殆ど冒険に出られなかったから……その、れ、レベルも……低いんですよ」
それを聞いて、シンジが御者台からひょいと振り返った。 視界に飛び込んできたのは、揺れる馬車の上で不安げに身を縮めるセシリアの、シスター服を押し上げんばかりの豊かな胸元だった。シンジは思わず釘付けになりそうになる視線を、必死にこらえて名乗る。
「俺はシンジ。一応、盗賊だ」
「……それで、セシリアさん」 ミーシャが真剣な顔で尋ねる。 「回復魔法(中)……ヒールライトあたりは使えるの?」
「……っ」 セシリアは困ったように視線を落とし、指先をいじりながら消え入るような声で答えた。
「……す、すみません……。れ、レベルは……8、なんです……」
「……はぁ、やっぱりね」 ミーシャは考え込むように空を見上げた。レベル8では、本格的な魔物との戦いでは心もとない。
「まあ、仕方ないわね。じゃあ、幻の魔法や、風の攻撃魔法(小)とかはどうかしら?」
「あ、後……守備力を下げる魔法とか、解毒なら……覚えてます……っ! よ、よろしく……お願いします……っ」
セシリアが、座ったまま深く頭を下げた。 その瞬間、御者台から振り返っていたシンジの目は、ある一点に釘付けになった。
お辞儀をしたことで、彼女の豊かな胸――「二つの大きなメロン」が、シスター服の中で重力に従ってプルンッと大きく弾んだのだ。 その弾み方、そして二つの塊がぶつかりそうになる様子を見て、シンジの脳裏に前世で見た「あのゲーム」の光景がフラッシュバックした。
「…………」
シンジは、その衝撃的な「揺れ」と「密着感」を凝視しながら、引きつった顔でボソリと呟いた。
「……め、メロンが二つか。……こりゃ、首都に着く頃には、くっついて『スイカ』になっちゃうな」
同じ種類が二つくっつけば、一段階大きな果物に進化する。 あの物理演算めいた絶妙な弾み具合は、まさにスイカへの進化を待機している状態にしか見えなかった。
「え? シンジ、何か言った?」
ミーシャの問いに、シンジは「いや、なんでもねえよ! 物理法則の心配だ!」と慌てて前を向いた。 レベル8の心細さよりも、いつか荷台で「スイカ」が完成してしまうのではないかという謎の恐怖を抱え、四人の旅が始まった。




