第4章:第69話:桃色の鎧と、妄想のステップ
第4章:第69話:桃色の鎧と、妄想のステップ
教会の脇に置かれた古びた荷馬車の周りで、真司は一人、金槌と鋸を振るっていた。 かつて培ったサバイバルの知恵か、それともただの器用さか。彼は手際よく荷台の荷物を端に寄せ、そこに大人二人がゆったりと腰掛けられる木製の座席を作り出していく。
「……よし、これなら長旅でも少しはマシだろ」
額の汗を拭いながら、シンジが立ち上がる。 その姿を見て、荷台の整理を手伝っていたミーシャが、ついに堪えきれなくなったように吹き出した。
「……ふ、ふふっ。ねえシンジ、改めて見ると……凄いわね、その格好。……ククッ」
「な、なんだよ」
「だってあなた……盗賊の端くれのくせに、そんな真っ赤な皮の鎧着るなんて……。目立ちすぎて、返り討ちにしてくれって言ってるようなものじゃない(笑)」
「……もう、ミーシャさん、だ、だめですよ。笑っちゃ……ふ、ふふっ、……うふふっ」
フィリアまでが口元を押さえ、肩を震わせてプルプルと震えている。 シンジは顔を真っ赤にし、忌々しげに自分の胸元を見下ろした。
「し、仕方ないだろ! これしか村に売ってなかったんだから! ……っていうか、これ、よく見たら赤っていうより、……ピンクっぽいよな。ちっ、ふざけんなよあの店主……」
「ピンクの盗賊(笑)。似合ってるわよ、情熱的で」
ミーシャの追い打ちに、シンジは「ちっ、こいつらは……」と毒づきながら、恥ずかしさを誤魔化すように再び作業に戻った。 仕上げに、非力な女性でも乗り降りしやすいよう、荷台の端に頑丈な足場を打ち付けていく。
そんな3人の賑やかなやり取りを、少し離れた場所から見守っている影があった。 神父の背中に隠れるようにして、セシリアが大きな丸メガネを光らせながら、じっとシンジを凝視していたのだ。
(……ぴ、ピンク色。あんなに破廉恥な色の鎧を堂々と着こなすなんて……。きっとあの男の人は、夜の営みも……あんなことや、こんなピンク色の……ひえっ!)
彼女の頭の中では、今まさにシンジがその逞しい腕で自分を組み敷き、無理やり「桃色の儀式」を強要する光景が鮮明に描かれていた。 シンジがステップを取り付けるために腰を屈め、服越しに背中の筋肉が躍動するたび、セシリアの妄想はさらに深淵へと突き進んでいく。
(……わざわざ私に、あんな階段まで作って……。あれは、『いつでも俺の寝床に這い上がってこい』という無言の誘惑……っ! ああ、神様、私はなんて不浄な……じゅわっ)
「おお、これは素晴らしい。シンジさん、実に使いやすそうだ」
背後の娘の妄想など露知らず、神父が感心したように声を上げた。 空を見上げれば、いつの間にか陽は傾き、辺りは柔らかなオレンジ色に染まり始めている。
「気づけばもう夕刻ですな。シンジさん、ミーシャさん、フィリアさん。今日は我が家……この教会に泊まって行ってください。精一杯のご馳走を用意させますから。出発は、明日の朝にしましょう」
神父の温かな提案に、シンジはピンク色の鎧を撫でながら、ようやく少しだけ表情を緩めた。
「……助かるよ、神父さん。腹が減ってちゃ、山も登れないからな」
その言葉を背中で聞きながら、セシリアは「山……!? やっぱり私の、私のこの部分を登るつもりなんだわぁぁっ!」と、再び顔から火が出るほどの妄想に身を悶えさせていた。




