第4章:第64話:二十四歳の迷い子と、聖域の契約
第4章:第64話:二十四歳の迷い子と、聖域の契約
神父は、まるで懺悔室で罪を告白するかのような、重苦しい溜息を吐いた。
「実は……先程のシスター。あれは私の一人娘でしてな。若い頃には子宝に恵まれず、私が五十手前になってようやく授かった、目に入れても痛くない一人娘なのです」
神父の目は遠くを見つめ、慈しむような、それでいて深い悩みを抱えたような色を帯びていた。彼はふと、二人の顔を見つめて問いかける。
「……客観的に見て、彼女は何歳に見えますか?」
ミーシャとフィリアは顔を見合わせた。あの幼い顔立ち、小柄な体躯。だが、不自然なほどに主張する豊かな胸。二人は声を揃えて答えた。
「……十四、五歳くらいかしら?」
「くっ、やはりそうですか……」
神父は力なく肩を落とし、絶望したように首を振った。
「実は……二十四歳なのです。今から六年前、彼女が十八の時でした。この国…レガリア王国の首都にある、冒険者が集う『レオーナの酒場』。あの子はあそこに冒険者として登録したのですが……」
神父の告白は、そこからさらに混迷を極めていく。
「あの子は根は真面目な良い子なのですが、極度のコミュ障……。その上、妄想癖が、その、凄まじく酷くて……」
そこまで聞いた瞬間、ミーシャの脳内で警報が鳴り響いた。 (……ヤバい。これ、絶対に関わっちゃいけないタイプの『特大の厄介ごと』だわ!)
「あっ、わかったわ! 110ゴールドね、今払うわ。ほら、キッチリあるから!」
ミーシャは神父の話を遮るように、猛烈な勢いで財布をひっくり返し、ゴールドを机に並べ始めた。早く金を払って、この場を、この話を終わらせなければならない。商人の嗅覚が、全力で逃走を命じていた。
だが、神父は動かない。ジャラジャラと鳴る金貨を見つめながら、ボソリと呟いた。
「……は、半額では?」
「いいえ、定価でいいわ! お釣りもいらないから!」
ミーシャの手は止まらない。一刻も早くシンジを生き返らせて、この教会を去る。それだけが正解だ。しかし、神父の次の一言が、彼女の鉄の理性を粉砕した。
「……じゃあ、タダで」
「――分かったわ!!」
ミーシャの口が、考えるより先に、条件反射で叫んでいた。 言った直後、ミーシャは「あ、やらかしちゃった……」という顔で固まった。自分の口を塞ぎたいが、もう遅い。
「……今の、聞きましたね?」
神父は、逃さないと言わんばかりの鋭い目でフィリアを振り返った。
「えっ? ええ、まあ……どういう事なの、ミーシャさん?」
事情が飲み込めないフィリアが、不思議そうにミーシャの顔を覗き込む。 ミーシャは青ざめた顔で、天を仰いだ。タダより高いものはない……その黄金律が、今まさに彼女の身に降りかかろうとしていた。




