第4章:第63話:聖域の密談と、神父の算盤
第4章:第63話:聖域の密談と、神父の算盤
重い扉の先、静謐な空気が満ちる教会の奥には、一人の年老いた神父と、若きシスターが佇んでいた。 シスターは幼い顔立ちながら、その修道服を押し上げんばかりの豊かな胸元が、静かな聖堂で妙に生々しい存在感を放っている。
ミーシャは、背後にふわふわと浮くシンジの棺桶を連れたまま、迷わず神父の前へと歩み寄った。
「……なるほど。蘇生をご希望ですね」
神父は驚く様子もなく、慣れた手つきでシンジの棺桶にそっと手を触れた。静かに目を閉じ、何かを探るような沈黙が流れる。やがて、彼は重々しく口を開いた。
「ふむ……。魂の摩耗は少ないようですが、この世界の理に則れば……そうですね、110ゴールドといったところでしょう」
「110ゴールド……」
ミーシャは腕を組み、わずかに眉を寄せて考え込んだ。フィリアが「払えるのかしら」と不安げに見守る中、ミーシャの口から出たのは、祈りではなく驚くべき「交渉」だった。
「ねえ、神父様。そこをなんとか、もうちょっと安くならないかしら?」
「……えっ?」
神父の顔から表情が消えた。隣にいたシスターも、信じられないものを見る目でミーシャを凝視している。その豊かな胸が、驚きで小さく上下した。
「ま……まさか、神の家である教会で値切る人がいるとは……」
神父は呆然と呟き、深いため息をついた。だが、彼はすぐに突き放すことはしなかった。 神父の鋭い眼光が、ミーシャの不敵な構え、そして彼女の隣で居心地悪そうにしているフィリアの「エルフの耳」をじっと観察し始める。
(この女の胆力……そして、エルフの娘か……)
神父は何かを決意したように、背後のシスターを振り返った。
「……シスター、お前は奥に下がっていなさい。大事な話がある」
「はい……神父様」
シスターが戸惑いながらも奥へ消えるのを見届けると、神父は二人を質素な木製のテーブルへと促した。 すぐに用意された温かな茶の香りが、張り詰めた空気をわずかに和らげる。
神父は二人の正面に腰を下ろし、組んだ指の上に顎を乗せた。その瞳には、先ほどまでの困惑ではなく、何かを見定めたような昏い光が宿っている。
「……実は、あなた方のような御仁にしか頼めない、少々訳ありの話がありましてな」
その言葉を合図に、教会の空気が一段と重く沈み込んだ。




