第4章:第62話:商売繁盛と、不条理な追走
第4章:第62話:商売繁盛と、不条理な追走
南の村へ到着したのは、太陽が真上に昇りきった、ちょうど昼時だった。 活気づく村の広場を前に、ミーシャは目を細めて不敵に微笑んだ。
「しめしめ……。フィリアちゃん、すぐ準備して! 馬車を露店仕様に作り替えるわよ」
「えっ……? ミ、ミーシャさん、商売をするんですか!? シンジさんを早く教会へ連れて行かないと!」
驚愕するフィリアを余所に、ミーシャは手際よく荷台の幌を跳ね上げ、看板を掲げた。
「お昼時が一番の稼ぎ時なの。お金があれば、シンジを生き返らせた後に贅沢なご飯も食べさせてあげられるでしょ? ほら、薬草ジュースの準備!」
ミーシャに押し切られる形で、フィリアは困惑しながらも薬草をすり潰し始めた。 以前、自分が飲ませてもらった特製薬草ハニージュース。蜂蜜の甘みが村人たちの興味を惹き、露店には次々と客が集まりだす。
「はい、お待たせしました! 健康にいい薬草ハニージュースですよー!」
「おいしそうだな、一つくれ!」
商売は順調だった。だが、フィリアが接客に追われている隙に、事件は起きた。 馬車のすぐ脇でプカプカと浮いていたシンジの棺桶を見つけ、村の子供たちが集まってきのだ。
「わあ、なんだこれ! 浮いてるぞ!」 「面白い! おーい、乗っても動くぞ!」
「あっ……!? こ、これ、ダメよ! お願い、やめてー!!」
フィリアは半泣きになりながら、棺桶の上に跨って跳ねている子供たちに駆け寄った。 シンジの抜け殻である棺桶が、子供たちの重みでゆらゆらと不格好に揺れる。
「それは……それはシンジさんなの! 遊具じゃないのよおぉ!」
必死の抗議でなんとか子供たちを追い払った頃には、ミーシャはすべての商品を売り切っていた。
「ふぅ、完売ね。さあ、行くわよフィリアちゃん」
ミーシャは満足げに売上金を袋に詰めると、馬車を広場に停めたまま、徒歩で村の外れにある教会へと向かい出した。 驚くべきことに、馬車から離れても、あの棺桶は二人の後を「シュルーッ」と一定の距離で付いてくる。
(歩いても付いてくる……。子供に乗られても、お姉さんに蹴られても、文句一つ言わずに浮いている……)
前を歩くミーシャの背中と、後ろを付いてくる不気味なほど大人しい棺桶を交互に見つめ、フィリアは再び激しい葛藤に襲われた。 これが「ことわり」。 これがこの世界の「ルール」。 悲しむ間もなく商売が始まり、死者の箱がペットのように付き従う。
「……なんなの、この世界……」
フィリアが小さく嘆息したその時、二人は古びた教会の前に辿り着いた。 ミーシャが迷いなく、重厚な木の扉に手をかける。
ギィィ……。
重い音を立てて扉が開いた。




