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第4章:第58話:なだらかな丘の影から

第4章:第58話:なだらかな丘の影から


馬車は宿場町マルガを後にし、朝日を浴びながらサカデウスへと続く平坦な街道を軽快に進んでいた。 御者台ではミーシャが慣れた手つきで手綱を握り、その隣にシンジが座っている。


シンジがふと気になって後ろの荷台を振り返ると、そこには昨夜からずっと顔を赤くしたまま、両手で胸を隠すようにして座り、シンジを恨めしそうに睨みつけているフィリアの姿があった。


「…………(ジロリ)」 「(……まだ、相当怒ってるな)」


シンジが気まずそうに前を向くと、横目でその様子を伺っていたミーシャが、前を向いたまま、いかにも年上の余裕といった風情で、朗らかな声を背後のフィリアへ投げかけた。


「……大丈夫よ、フィリアちゃん。そんなに気にしなくても、大人になったらみんな大きくなるんだから」


「……っ!! ミ、ミーシャさんまでぇっ!!」


後ろから、恥ずかしさに震えるフィリアの悲鳴のような声が響く。 だが、その時だった。シンジの意識が、街道の斜め前方、なだらかな「おっぱい型の丘」の裾野にある、深い草むらへと吸い寄せられた。


揺れる背の高い草や木々の間から、日光を吸収するような禍々しい漆黒の塊が、音もなく這い出そうとしていた。


シンジは座席から身を乗り出すようにして、険しい表情で一点を見据えた。その喉の奥から、今までにないほど真剣で、そして地を這うような低い声が漏れる。


「……大きい。……大きいぞ……」


「……っ!?ぁ、あぅ……っ! シ、シンジさん、バカーーーっ!!」


昨夜からの流れで、自分の胸のことだと完璧に思い込んだフィリアが、恥ずかしさのあまり叫んで荷台の奥へ隠れようとする。ミーシャも「また始まったわ」と呆れたように笑おうとした――。


――ズ、ズゥゥゥゥンッ!!


重い足音が地響きとなり、草むらをかき分けて「それ」が姿を現した。


「……ッ!? な、何よ、あれ……ッ!?」


ミーシャの顔から一瞬で血の気が引いた。 現れたのは、全身が夜の闇を塗りつぶしたような黒色に包まれた、巨大なサイクロプスだった。 のっそりと、だが確実に街道を塞ぐように立ちはだかるその体躯。顔の中央にある巨大な一つ目が、不気味に蠢きながら馬車を捉える。


シンジはすでに腰の獲物に手をかけ、鋭い眼光でその黒い巨躯を射抜いていた。


「……フィリア、伏せてろ! ミーシャ、馬車を止めるな、突っ切るぞ!」


和やかな旅の空気は一瞬で霧散した。 シンジの鋭い怒号が、草原の静寂を切り裂いた。

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