第4章:第57話:焚き火と異世界の麺
第4章:第57話:焚き火と異世界の麺
「ミーシャのおみせ」の営業が終わり、夜営地に静かな夜が訪れる。 シンジは馬車の片付けを終えると、パチパチと爆ぜる焚き火の傍らに腰を下ろした。隣では、フィリアが慣れない立ち仕事の疲れからか、少しうとうとしている。
そこへ、夜営地の露店を物色しに行っていたミーシャが、両手に香ばしい匂いのする包みを抱えて戻ってきた。
「ただいま! ほら二人とも、晩ごはんにしましょう!」
ミーシャが広げたのは、串に刺さった大ぶりな肉と、木製の器に入った真っ白な太麺だった。
「これ、この宿場町マルガの名物なのよ。このお肉、すごく柔らかくて美味しいんだから。それに、こっちの麺も見て! 『コシ』っていうのかしら? 押し返すような弾力がすごいのよ!」
シンジは差し出された串肉を一口かじった。じゅわりと溢れる肉汁と、絶妙な塩加減が疲れた身体に染み渡る。
「……本当だ、柔らかいな。リーベルの肉とはまた違う旨みがある」 「でしょ? 私は昔、一度だけここまで来たことがあるんだけど、この味だけは忘れられなかったのよね」
ミーシャは満足げにドヤ顔を浮かべると、今度は「コシのある麺」を器用に啜り始めた。シンジもそれに倣う。つるりとした喉越しと、噛み締めるほどに味わい深い独特の弾力に、思わず頬が緩む。
「……ふぅ。美味しいですね、シンジさん、ミーシャさん」 フィリアもようやく目を覚まし、嬉しそうに麺を頬張っている。
「でしょ? 良かったわ。……ねぇ、シンジ。ここから先の旅路なんだけど」
ミーシャは焚き火の火を見つめながら、指で空中に地図を描くように話し始めた。
「ここから先は、しばらく平坦で旅しやすい道が続くわよ。高い山なんてなくて……ほら、あそこに見えるような、おっぱいみたいな形の丘がポコポコ並んでるだけだから」
ミーシャが指差した先、月明かりに照らされた地平線には、なだらかな曲線を描く独特な形の丘がいくつも浮かび上がっていた。
「……おっぱい、ですか?」
フィリアが純粋な瞳で不思議そうに首を傾げる。その拍子に、彼女の銀髪が肩からさらりと流れ落ちた。 シンジは無意識に、焚き火の光に照らされたフィリアの胸元へと視線を落とした。
「……まぁ、確かになだらかだな。馬車も進みやすそうだ」
シンジが独り言のように、それでいてどこか意味深な余韻を残して呟く。 最初は「?」と首を傾げていたフィリアだったが、シンジの視線の先に気づいた瞬間、その白い肌が一気に林檎のように赤く染まった。
「……っ! し、シンジさん……!?」
フィリアは慌てて両手で自分の胸を隠すように抱え込み、潤んだ瞳でシンジをキッと睨みつけた。
「シンジさんのエッチ! どこを見て言ってるんですか……っ!」 「いや、俺はただ、地形の話を……」 「嘘です! 今、絶対『なだらか』って言いながら私のこと見ましたよね!?」
「あはは! シンジ、あんたも言うようになったじゃない!」 ミーシャが愉快そうにシンジの背中をバシバシと叩く。
「……でもね、その平原を抜けた先、大きな川の手前にサカデウスっていう大きな街があるの。そこがこの先へ進むための、中継地点になるわ。今夜はしっかり休んで、明日はそこを目指しましょう」
ミーシャは最後の一切れの肉を口に放り込むと、火照った顔でシンジを見つめ、不敵に、けれど優しく微笑んだ。
「大丈夫よ、シンジ。この『一文無し』のあんたを、ちゃんと目的地まで連れて行ってあげるから。……身体で払ってもらう分、たっぷり稼いでもらわなきゃね?」
焚き火の明かりが、気まずそうに鼻をこするシンジと、怒りながらもどこか楽しそうなフィリア、そしてそれを見て笑うミーシャの姿を、賑やかに照らし出していた。 マルガの夜は、穏やかに更けていった。




