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幕間:第54.4話:残された者たちの願いと"銀髪の悪魔"

幕間:第54.4話:残された者たちの願いと"銀髪の悪魔"


シンジ、ミーシャ、そして妹のフィリア。 徒歩で里を離れていく三人の背中が、森の木立に溶けて見えなくなるまで、シルフィアとリリアーヌはそれを見送っていた。 舞い上がった土埃がゆっくりと沈み、里にいつもの静寂が戻ってくる。


「……行っちゃったわね。お母さん、いつまでそうやって眺めてるのよ。キャラじゃないでしょ」


金髪を高い位置で結い上げたハイポニーテールを揺らし、リリアーヌが少し投げやりな口調で声をかけた。見た目は派手なギャルのようだが、中身は誰よりもしっかり者のお姉さんだ。隣に立つ母親が、里の者の前では「完璧な美人」を演じながら、実は親バカでお調子者であることを彼女はよく知っている。


シルフィアはふっと表情を崩し、悪戯っぽく笑った。


「なんだかあの子たちを見てたら、思い出しちゃったわ。私がまだ若くて、人間の街で……そうね、あちこちエンジョイしてた頃のことを」


「はあ? エンジョイ? 何言ってんのよ、お母さん。……まーた始まった」


リリアーヌが呆れ顔でため息をつく間もなく、シルフィアはパチンと手を叩いた。


「決めたわ! リリちゃん、ちょっとお出かけするから支度しなさい!」


「……は? 嫌よ。執務だって溜まってるでしょ」


抗議も虚しく、シルフィアはリリアーヌの手を強引に引き、里の外れにある古びた井戸へと連れて行った。

そして慣れた手付きで井戸の中に入っていく…


「ちょっと! お母さん、引っ張らないでってば! ……って、ここ、地下通路じゃない。何なのよ、もう!」


文句を言いながらも結局は付き合ってあげるリリアーヌ。やがて井戸の底に辿り着くと、そこには眩いばかりに光輝く「旅の扉」があった。


「さあ、行くわよ、リリちゃん!」


「ちょっと待ちなさ――っ!?」


光に包まれ、次に二人が目を開けたとき、そこは暗くて冷たい地下の牢屋のような場所だった。


「……何これ。牢屋? お母さん、あんた昔ここで捕まってたわけ? ウケるんだけど」


「あったあった!」


檻の外へ出たシルフィアが古い扉を開けると、そこには地上への梯子。登る直前、母は布の束をリリアーヌに投げつけた。


「リリちゃん、はいこれ! 耳を隠すのよ!」


手際よく自分の耳を隠し、スルスルと梯子を登っていく母の背中を見上げ、リリアーヌは戦慄した。


「コイツ……まさか、いつもこうやって抜け出してたわけ……?」


木の蓋を押し開け、埃っぽい食糧庫を抜けて扉を開けた瞬間――。


「――ガハハハ! 景気よく持ってこい!」


「こっちにエールをもう一つ!」


むせ返るような酒と脂の匂い、そして人間たちの野太い喧騒。そこは、昼時から大勢の客で賑わう活気溢れる酒場だった。


「良かった、いつもの席空いてたわ!」


「……いつもの席って……。お母さん、あんたマジで何なのよ……」


呆気にとられ、母の向かいに腰を下ろすリリアーヌ。


その時、ジョッキを山のように抱えた大男が、目を丸くして足を止めた。


「……あれ? あんた……シルフィア……さん?」


「ん?」


「俺だよ俺! この酒場の跡取りの、ガストンだよ! ほら、俺がガキの頃、いっつも裏路地で遊んでくれてたじゃねえか!」


ガストンは豪快に笑い、向かいに座るリリアーヌを見た。


「ガハハ! 相変わらずだな、シルフィアさん! ……で、こっちの連れは? あんたの友達か? お前さんもなかなかに綺麗なツラしてるじゃねえか!」


(……友達? 私が、このお調子者と? というか、私はあんたの娘なんですけど!)


心の中で激しくツッコむリリアーヌ。するとシルフィアは何故か頬を赤らめ、あざとく首を傾げてみせた。


「そ、そうなの! 今日は友達を連れてきたのよ、きゃはっ☆」


(…お母さん、マジでキツいんだけど。無理があるでしょ)


冷ややかなリリアーヌを無視して、ガストンは真顔で続けた。


「まあ、シルフィアと友達なら……色々と気をつけねえとな。なんたってこの酒場じゃ、"銀髪の悪魔"って恐れられてたんだから……」


ドゴォッ!!


「……げふぁっ!?」


「――あーら、ガストン。そんな昔の話、誰も聞いてないわよ?」



シルフィアの鋭い正拳突きがガストンのボディにめり込む。巨体がカウンターに沈むのを眺めながら、リリアーヌは確信した。


(……間違いない。お母さん、ここでの『エンジョイ』、絶対ろくなことしてないわね)


シルフィアは何事もなかったかのように拳をふーっと吹き、リリアーヌに向かって可憐に微笑んだ。


「さあ、リリちゃん。何食べようかしら?」


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