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第1章:第5話:初めての「生」の感触

第1章:第5話:初めての「生」の感触


「……シンジ、やってみなさい! 危なくなったら私が助けてあげるから!」


背後から届く、ミーシャの凛とした声。 その響きには、ただの商人の娘とは思えない、不思議な落ち着きと力強さが宿っていた。 彼女は御者台に腰掛けたまま、いつでも動けるような独特の「構え」でシンジを見守っている。その腰のポーチには、商人の護身用にしては妙に手慣れた風に、投擲用の小石や、傷を癒やす「奇跡の薬」が収められていた。


だが、今のシンジには、そんな彼女の余裕を怪しむ余裕など、微塵もなかった。


(……怖い。なんだ、この……吐き気のするような威圧感は……!)


画面の中で見ていた、愛らしい青いスライムとは違う。目の前のそれは、半透明の体躯の中にドロリとした核が蠢き、不気味な脈動を繰り返す「異形の塊」だった。そして、ゴブリンの放つ、えた獣臭と、ドブのような口臭が鼻腔を突き刺す。


「ギギィッ!」


先陣を切ったゴブリンが、殺意の塊のような棍棒を振り下ろす。 「――っ!」 シンジは無我夢中で、借り物の『木の盾』を前方へ突き出した。


ドォォン!!


重い衝撃が左腕を伝い、骨の芯まで痺れさせる。 現代で重い書類鞄を抱えていた時とは次元の違う、剥き出しの「暴力」の重みだ。 だが、女神に与えられた若くしなやかな身体は、その衝撃に耐え、即座に反撃のバネへと転じた。


(動け……動けよ、俺の身体……! ここで死ぬために、ここへ来たんじゃない!)


ゴブリンが体勢を崩した、刹那の隙。 シンジは、引き締まった全身のバネを使い、渾身の力で『木の剣』を横に薙いだ。


――ヌチャッ。


スライムの粘液質な体躯を断ち切る、おぞましい感触。 ゲームのボタン入力ではない。剣の柄を通じて直接伝わってくる、生き物の抵抗感。そして、生命の核が弾け、霧散していく瞬間の生々しい手応え。


「……あ、が……!」


返り血ならぬ、スライムの冷たい粘液が頬を打つ。 心臓が口から飛び出しそうなほど跳ね上がり、呼吸が熱く、浅くなる。 殺さなければ、殺される。34年間、会社という名のぬるま湯で、死んだように生きていた男にとって、それはあまりに過酷な「洗礼」だった。 けれど同時に、指先が痺れるほどに――自分が今、この瞬間「生きている」ことを実感させていた。


「いいわよシンジ! 腰が引けてるけど、筋は悪くないわ!」


ミーシャの叱咤が飛ぶ。彼女は身を乗り出すようにして、シンジの動きをどこか楽しそうに、それでいて鋭い鑑定士のような目で見極めていた。


シンジは荒い息を吐きながら、残ったゴブリンを睨み据えた。 恐怖で指先はガタガタと震えている。だが、その震えはいつしか絶望ではなく、未知なる「再生」への高揚感へと変わり始めていた――。

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