幕間:第54.3話:ミーシャの再起
幕間:第54.3話:ミーシャの再起
地方都市リーベルの宿屋の裏手。まだ朝の冷気が残るなか、ミーシャは新しく生まれ変わった馬車の荷台に、食料の干し肉や薬草の束を丁寧に積み込んでいた。
「……よし、これでパズルは完璧ね」
商人として、限られたスペースを最大限に活用するのはお手の物だ。けれど、今回の馬車は以前の「荷馬車」とは全くの別物になっていた。
ムサカ村からこの街に戻ってきてからの数日間、シンジは寝る間を惜しむようにしてこの馬車を改良してくれたのだ。 荷物専用だったスペースをあえて削り、御者台に二人、中にも二人がゆったりと座れる居住スペースを確保。さらに、夜にはシートを動かせば大人三人が横になって眠れるという、まるで魔法のような構造。
「……きゃんぴんぐかぁ〜……だったっけ? シンジ、そんな呪文みたいなこと言ってたわね」
ふと思い出した仲間の言葉を口にして、ミーシャは小さく笑った。旅を続ける一行にとって、これ以上の贅沢はない。
さらに驚くべきは、その「乗り心地」だった。 車軸には『板ばね』という、衝撃を和らげる不思議な機構が取り付けられ、御者台の座席にも同じ工夫が凝らされていた。
(シンジの故郷の技術なのかしら……。これなら、王都への険しい山道も、お尻を痛めずに進めそうね)
ミーシャは満足げに頷くと、馬車の前に回った。そこでは、彼らの旅を支える愛馬が、朝の光を浴びて静かに立っていた。
「おはよう、ルドルフ。今日もいい毛並みね」
ミーシャはブラシを手に取り、優しくその体を撫でる。以前はただ「君」と呼んでいただけだったが、シンジがこの馬に名前を付けてくれたのだ。
「……君も、素敵な名前を付けてもらえてよかったわね。…シンボ…リ……ルドルフ、だったかしら? ふふ、ちょっと長いから、ルドルフでいいわよね」
ミーシャが語りかけると、ルドルフは分かっているのか、鼻を鳴らして応えた。
今の自分の状態を、商人としての誇りを胸に、頭の中で整理してみる。
【ミーシャ(人間)】 職業:商人Lv.14(元・武闘家Lv.24) 装備:棘の鞭、短剣、商人の帽子、皮の鎧、エルフの守り 習得スキル:
『鑑定』:アイテムの価値や真偽を見抜く。
『交渉術』:取引の際、有利な条件を引き出しやすくする。
『算術』:複雑な計算を瞬時に行い、利益を算出する。
『体術』:武闘家時代の経験を活かした回避や護身術。
(商人のレベルも14まで上がったわね。戦う力は二人に任せたいけれど、いざとなったらこの鞭で私が道を作るわ)
胸元で揺れる『エルフの守り』をそっと握りしめる。シンジとフィリア、そして自分。お揃いのお守りを身に着けた今の私たちは、ただの利害関係じゃない、本当の『パーティー』になったのだと確信できる。
かつてリーベルの街で一人、必死に商売をしていた頃の自分。あの頃の夢は、ただ大きな商いをして成功することだけだった。 けれど今は違う。この最高の仲間たちと一緒に、最高の馬車に乗って、まだ見ぬ首都の景色を見に行きたい。
「お待たせ、二人とも。……出発の準備は、万端よ!」
ミーシャは、宿の扉から出てきたシンジとフィリアに向かって、太陽のような眩しい笑顔で手を振った。




