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幕間:第54.2話:フィリアの憧憬

幕間:第54.2話:フィリアの憧憬


朝日が差し込む前の、まだ薄暗い宿の一室。 窓の外から聞こえ始めた鳥のさえずりに合わせるように、フィリアは勢いよくベッドから起き出した。


「ふふ、もう朝……。ううん、まだ少し早いかな?」


エルフの鋭い聴覚が、階下で店主が準備を始める微かな音を捉える。本当ならもう少し眠っていてもいい時間。けれど、胸の鼓動がトクトクと高鳴って、じっとしていられなかった。まるで、幼い頃に里の年長者から外の世界の話を聞かされた夜のような、落ち着かない高揚感。


フィリアは枕元に置いていた装備を、愛おしそうに指でなぞる。 エルフの里で、お母さんのシルフィアが「行ってらっしゃい」と授けてくれた、軽量で丈夫な『エルフの鎧』と、手に吸い付くように馴染む『エルフの弓』。 そして、その横に大切に置かれた一振りの短剣。それは、姉のリリアーヌが「存分に楽しんで来なさいな」と、彼女が大切にしていたものを託してくれたものだ。


(お母さん、お姉ちゃん……私、頑張ってるよ)


これまでの日々が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。 平和だったエルフの隠れ里。そこを飛び出した自分。 絶望の中でシンジとミーシャに出会ったあの瞬間。 そして、里に戻った自分を温かく、時に豪快に迎えてくれた家族の笑顔。


フィリアは鏡の前に立ち、襟元から覗く小石のアクセサリーをそっと指で弾いた。 リリアーヌが三人のために用意してくれた『エルフの守り』。 シンジも、ミーシャも、そして自分も。今、この瞬間に同じお守りを身に着けている。その事実が、何よりも彼女の勇気を奮い立たせてくれた。


(シンジさんは、私の手を引いてくれた。ミーシャさんは、私を信じて笑ってくれた。……お姉ちゃんたちがくれたこのお守りが、私たち三人の絆を繋いでくれているみたい)


ムサカ村では、お母さんから貰った『目覚めの笛』で村のみんなを救うことができた。あの時の手の震えも、吹き鳴らした後の安堵も、すべてが今の自分を作っている。


「ふふっ、今の私なら、どこまでだって歩いていけそう……!」


今の自分の状態を、里にいた頃を思い出しながら、頭の中で反芻してみる。


【フィリア(エルフ)】 職業:狩人Lv.9 装備:エルフの弓、エルフの短剣、旅人のぼうし、エルフの鎧、エルフの守り 習得スキル:


『精密射撃』:遠くの標的を正確に射抜く。

『森の加護』:自然の力を借りて、自分や仲間の回避率をわずかに上げる。

『目覚めの調べ』:『目覚めの笛』を使用し、特殊な眠りや呪いを解く。

(レベル9……。シンジさんにはまだ届かないけれど、あのムサカ村での経験を経て、私の弓も、魔法の力も、少しだけ強く、確かになった気がする)


お母さんから授かった『エルフの鎧』は、まるでもう一枚の自分の肌のように軽く、守ってくれている。お姉ちゃんから貰った『エルフの短剣』は、弓が使えない近接戦での私の新しい牙だ。


そして何より、胸元で揺れる『エルフの守り』。これがあるから、私は未知の世界の毒や呪いだって恐れずに立ち向かえる。


(一人の『狩人』として、私は二人を支えられるくらい強くなりたい。……もう二度と、足手まといにはならないって決めたんだもの)


エルフの里にいた頃の自分が見たら、今の自分をなんて言うだろう。 きっと、目を丸くして驚くに違いない。見知らぬ人間の街で、こうしてお揃いのお守りを握りしめ、旅立ちの朝を心待ちにしている自分を。


「……王都、マルシェリア。そこには、どんな不思議なことが待っているのかしら」


シンジが見たいと言った首都の景色。ミーシャが目指す新しい可能性。 お母さんや姉さんの想いと一緒に、それを一緒に見に行けることが、何よりも誇らしい。


フィリアは、窓の外に広がるリーベルの街並みを見つめた。 ひんやりとした朝の空気が、ワクワクで火照った頬に心地いい。


「お待たせしました、世界さん。……私、もうすぐ会いに行きますね」


誰にともなくそう呟くと、フィリアは溢れそうになる笑顔を噛みしめるように、丁寧に荷物をまとめ始めた。

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