第3章:第53話:目覚めの旋律、響く歓喜
第3章:第53話:目覚めの旋律、響く歓喜
翌朝、二度目の野営地を発った三人は、昼過ぎには懐かしいムサカ村の境界へと辿り着いた。 村を包む静寂は相変わらずだったが、教会の前に立つと、扉が静かに開いて神父が姿を現した。その険しかった表情が、三人の姿を認めた瞬間にふわりと解ける。
「……よくぞ、無事で帰ってきてくれました」
神父の短い、けれど心のこもった出迎えに、シンジは小さく頷いて応えた。 一行はそのまま、静まり返った教会の中へと足を踏み入れる。そこには、あの日から時が止まったままの村人たちが、冷たい床や椅子に横たわっていた。
「……みんな、今起こしてあげるから」
フィリアが懐から、エルフの里で授かった『目覚めの笛』をそっと取り出す。 彼女が唇を寄せ、静かに息を吹き込むと――。
透き通るような、柔らかな笛の音が教会全体に響き渡った。 それは強引な音ではなく、深い眠りの底に優しく手を差し伸べるような、温かな旋律だった。
「……う、ん……」 「ここは……?」
一人、また一人と、村人たちが瞼を震わせ、ゆっくりと上体を起こし始める。 三人は教会の隅々まで歩き回り、呆然としている村人たちの肩を抱き、水を与え、一人一人が確かに目覚めたことを確認していった。
最後の一人が意識を取り戻したのを見届け、三人と神父は自然と顔を見合わせた。 そこには言葉はなく、ただ、やり遂げたという確信に満ちた柔らかな微笑みだけが交わされた。
その後、神父が村人たちに向き直り、何が起きたのか、そして三人がどれほどの苦労をしてこの笛を持ち帰ったのかを静かに説き聞かせた。 沈黙が数秒続いた後――。
「……ありがとう!」 「助かったんだ、俺たちは……!」
教会の中に、爆発するような歓喜の声が渦巻いた。涙を流して三人の手を握る者、家族と抱き合う者。 ムサカ村を支配していた冷たい眠りは、フィリアの奏でた一節によって、完全に打ち払われたのだった。
「……さあ、今夜は宴だ! 三人は、我が村の恩人だ!」
村人の一人が上げた叫び声に、誰もが賛同の声を上げる。 日が暮れる頃には、村の広場には大きな焚き火が用意され、眠りから覚めたばかりとは思えないほどの活気に満ちていた。




